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第135話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日20p
冬の美術館の会場は、白く細長い二階建ての大きな建物だった。
建物の入り口付近にはライトアップされた冬の美術館の大きなパネルがある。
パネルの絵は、雪の降る中で空を見上げる白熊の絵。
天谷はそれを見あげて顔を綻ばせる。
「中、入ろうぜ」
日下部に言われて天谷は、「うん」と返事する。
入り口でチケットを切って、パンフレットを受け取ると、二人は息をひそめるように静かに冬の美術館へ足を踏み入れた。
二人が会場へ着いたのは美術展終了の一時間前。
会場内は、人はまばらだった。
人混みの苦手な天谷には丁度いい具合だ。
二人は並んで、そっと作品に近付く。
雪だるまと握手する赤いコートを着た女の子の絵。
明かりを押さえた天上の照明の代わりに作品を照らすのは壁を蔦のように覆う、いくつもの小さなざらめの飴玉のような形をした白いライトと作品を下から照らす暖かい光。
その二つの光りのお陰で、まるで、秘密の洞窟に眠る宝物みたいに作品が浮かび上がって見える。
見回す限り、会場の全ての作品がそのように展示されていた。
日下部が言っていたクリスマスの夜の特別な展示とはこのことか、と天谷は思う。
「可愛い絵だな」
日下部が言う。
「うん」
天谷が答える。
二人はこの絵をしばらくジッと見ていた。
いい加減見た後、次の作品へ。
青く晴れた空の下にそびえる白い雪山。
この美術展の作品は、どれも作者が異なるようだ。
二人は、一つ一つの作品の前でじっくりと足を止めて作品について語り合う。
水墨画の雪女の前で日下部が、「この雪女、天谷に似てるな」と感想を述べると、「お前の目は節穴だ」と天谷が口を尖らせて言う。
「ほら、吹雪を吐き出すのに口を尖らせてるとことかめちゃくちゃ似てる」
「なっ、日下部のばか」
声を顰めながら、そんな風にふざけ合ったりもする。
二人はいつの間にか寄り添っていた。
それが自然なことのようで、天谷は全然気にならなかった。
日下部の体温と息遣いを感じながら、大好きな絵を見て、それが天谷には心地よくて。
(これが俺にとって普通でいることなのかな)
そう思って日下部の横顔を見てみると、日下部は、「ん?」と天谷に不思議そうな表情を見せる。
急に恥ずかしくなって天谷は急いで日下部から視線を逸らして、目の前の絵を見た。
白い雪の中に残った小さな靴の跡の絵だった。
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