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第136話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日22p

(どういう絵だろう) 天谷は作品のタイトルを見てみる。 絵のタイトルは『忘れ物を取りに』となっている。 「この忘れ物って何だろうな」  天谷は首を傾げた。 「ん、何?」 「いやさ、この絵のタイトル」  天谷に言われて、日下部は絵のタイトルを見る。 そして、「うーん」と唸る。 「タイトルってさ、大事だよな。タイトル一つで絵の見方が変わっちまう」  日下部が絵とタイトルを交互に見ながらそう言う。  天谷は頷いた。 「小説もさ、タイトルが大事なんだよ。タイトル一つで読む気が左右されんの」 「わかる気がするわ。タイトルの中に作品のセンスが現れるよな。小説も、絵もさ。この絵もさ、こんなタイトル無かったら、この絵の意味なんか深く考えられなかったかも知れないよな。ちゃんと意味があるんだぞ、っていう、作者からのメッセージだよな」 「日下部がこのタイトルから深く考えるこの絵の意味は?」 「うーん。小さな子供が雪で遊んでてさ、遊びに夢中になって自分の持ち物を忘れちまうんだよ。鞄とか、何だとか……で、それに気が付いて取りに行くって絵? 意味は……無我夢中」 「深く考えて、それ?」 「必死で考えたんだぜ。文句ある?」 「別に……あっ」  天谷の目に、壁に掛かった白い掛け時計が目に入った。  それを見て天谷は焦る。 「日下部、時間、後十五分しかない。早く次回ろうぜ」  日下部も時計を見ながら目を見開いている。 「早えーな。時間無い。よし、次だ」  時間が無いと言いながらも、二人は残りの作品をやっぱりゆっくりと見た。  周りの客は、そろそろ帰ろうか、だなんて話している。  でも、天谷と日下部は帰るそぶりなんか見せずに絵の前にいた。  残り五分。  二人は最後の作品の前にいた。  その作品の前には二人だけ。  二人きりで絵の前にいる。  チケットの白熊の絵。  意外と小さな作品だった。  それは油絵で、作品のタイトルは『手のひらの雪を見る日』  白熊の黒い瞳が、下から照らす光でキラキラと光って見える。  白い毛並みは、白の飴玉みたいなライトの光で艶やかに見えた。  まるで、生きているかのよう。  白熊に降りそそぐ白い雪は柔らかく、優しい。  雪の降る、淡い世界で、たった一匹、空を見上げている白熊。  その瞳で、その空に何を見ているのか。  手のひらの雪を見る日。  絵のタイトル。  この絵の意味するところは?

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