136 / 245
第136話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日22p
(どういう絵だろう)
天谷は作品のタイトルを見てみる。
絵のタイトルは『忘れ物を取りに』となっている。
「この忘れ物って何だろうな」
天谷は首を傾げた。
「ん、何?」
「いやさ、この絵のタイトル」
天谷に言われて、日下部は絵のタイトルを見る。
そして、「うーん」と唸る。
「タイトルってさ、大事だよな。タイトル一つで絵の見方が変わっちまう」
日下部が絵とタイトルを交互に見ながらそう言う。
天谷は頷いた。
「小説もさ、タイトルが大事なんだよ。タイトル一つで読む気が左右されんの」
「わかる気がするわ。タイトルの中に作品のセンスが現れるよな。小説も、絵もさ。この絵もさ、こんなタイトル無かったら、この絵の意味なんか深く考えられなかったかも知れないよな。ちゃんと意味があるんだぞ、っていう、作者からのメッセージだよな」
「日下部がこのタイトルから深く考えるこの絵の意味は?」
「うーん。小さな子供が雪で遊んでてさ、遊びに夢中になって自分の持ち物を忘れちまうんだよ。鞄とか、何だとか……で、それに気が付いて取りに行くって絵? 意味は……無我夢中」
「深く考えて、それ?」
「必死で考えたんだぜ。文句ある?」
「別に……あっ」
天谷の目に、壁に掛かった白い掛け時計が目に入った。
それを見て天谷は焦る。
「日下部、時間、後十五分しかない。早く次回ろうぜ」
日下部も時計を見ながら目を見開いている。
「早えーな。時間無い。よし、次だ」
時間が無いと言いながらも、二人は残りの作品をやっぱりゆっくりと見た。
周りの客は、そろそろ帰ろうか、だなんて話している。
でも、天谷と日下部は帰るそぶりなんか見せずに絵の前にいた。
残り五分。
二人は最後の作品の前にいた。
その作品の前には二人だけ。
二人きりで絵の前にいる。
チケットの白熊の絵。
意外と小さな作品だった。
それは油絵で、作品のタイトルは『手のひらの雪を見る日』
白熊の黒い瞳が、下から照らす光でキラキラと光って見える。
白い毛並みは、白の飴玉みたいなライトの光で艶やかに見えた。
まるで、生きているかのよう。
白熊に降りそそぐ白い雪は柔らかく、優しい。
雪の降る、淡い世界で、たった一匹、空を見上げている白熊。
その瞳で、その空に何を見ているのか。
手のひらの雪を見る日。
絵のタイトル。
この絵の意味するところは?
ともだちにシェアしよう!