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第138話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日24p

 しばらく歩いて天谷が立ち止まる。 「どうした?」  日下部も立ち止まって天谷に訊く。  天谷は困惑気な表情を浮かべる日下部の顔を見てから視線を横に反らして「日下部、ありがとう。美術展、凄く楽しかった」と恥ずかし気に言った。  普通にしたいのに、何だか上手く行かない。  日下部は黙って天谷を見ている。  天谷は不安になって日下部を見る。  日下部は、ニッと笑って「本当に楽しかった?」と天谷に訊く。 「本当だ」  天谷は小声で言う。 「本当に、本当だ」  今度は、確かめるようにハッキリとそう言った。  そして、天谷はふわりと笑った。  どうして笑ったのか、天谷にもわからない。  自然と笑ってしまったのだ。 「っつ……」  日下部の顔が一瞬、辛そうな表情を作る。  何かを耐えているような、そんな辛さ。 「日下部?」  一瞬の日下部の変化に天谷は戸惑う。  日下部は直ぐに何でも無い顔をして、天谷の髪を、くしゃくしゃに掻き混ぜた。 「俺も楽しかったよ。付き合ってくれてありがとうな、天谷」  乱れた天谷の髪を撫でながら、日下部が言う。  天谷はその手を振り払わない。  日下部の手の感触を、しばらくそのままにした。  駅近くの安いカフェで適当な食事をしながら美術展の話をして過ごして、気が付けば時間は夜の十一時を過ぎていた。 「そろそろ帰るか」  日下部がそう切り出した。 「あ、うん」  二人して、もたもたと席を立つ。  会計を済ませて、出入り口の扉を開けると、一気に冷気を持った風が二人を取り巻いた。  カフェの外はヒリヒリとする寒さだ。  カフェがやたらと暖かかった分、余計に寒さを感じる。 「ううっ、寒っ。シベリアかよ!」  日下部は震えている。 「シベリアって……でも、風邪引きそうな寒さだな」  天谷は自分の手に息を吹きかける。  はぁっと、吐きだす息が白くなって煙のよう。 (家に着くまで凍っちゃうかもな)  なんて、冗談を天谷は考える。 「天谷、これ」  日下部の声に、天谷が顔を上げると、日下部が小さな紙袋を両手に持って天谷に差し出していた。 「えっ、何?」  天谷は目を大きく開いて紙袋を見る。  緑色の紙袋には持ち手の所に赤いリボンが付いていて、袋の口を留めるテープにはHappy Xmasと書いてある。  天谷は紙袋を見ながら呆然とする。

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