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第139話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日25p
「いや、これはだな、お前が良い子にしてるからって、サンタクロースから預かったんだ。だから、はい、どうぞ」
日下部は紙袋を天谷に押し付ける。
天谷は戸惑いながらも紙袋を受け取る。
天谷はしげしげと紙袋を見て、「さ、サンタクロースから?」と、疑わしそうに日下部に訊いた。
「そう、サンタクロースから」
「絶対に?」
「オフコース」
「わ、わかった。開けていい?」
「オフコース!」
天谷は紙袋の封を切ると、袋の中身を取り出した。
赤い毛糸の、片方だけ、手首の辺りに小さな青い星のマークの付いた手袋。
それと、大きな口から歯をニッと出した、日下部に似ている毛糸で編んだ鯨のぬいぐるみ。
二つとも、日下部とカササギデパートの店で見た物。
「日下部、これ……」
いつの間に買ったのか、天谷は考えようとした。
「手袋、はめてみろよ」
日下部に言われて、天谷は考えるのを止めて、「うん」と言う。
ゆっくりと、両手に手袋をはめてみる。
サイズはピッタリだった。
天谷は片手を広げて、自分の手をじっくりと見た。
(暖ったかい)
天谷は胸がいっぱいで、どうしたらいいのかわからなくなる。
と、天谷の手のひらに白い物が落ちた。
何だろう、と、天谷はよく見てみる。
「雪だ」
日下部の声。
日下部は空を見上げていた。
「雪……」
天谷の手のひらに落ちたのは雪だった。
雪は一瞬で溶けて、天谷の手袋に、その跡を残した。
道行く誰もが足を止めて空を見上げている。
その中で、天谷は自分の手のひらを、日下部に貰った手袋に残った雪の跡を見ていた。
手のひらの雪を見る日。
あの絵のタイトル。
あの絵の意味。
天谷に幸せな気持がこみ上げてくる。
その幸せをくれたのは…………。
天谷は空を見上げる日下部を見る。
そして、やっと自分も空を見上げた。
雪が、はらりはらりと天上から落ちて来る。
「積もるかなー」
日下部が空を見上げながら言う。
「無理だろ」と天谷。
「無理かー。雪だるま、作りてー」
日下部の台詞に天谷が笑う。
「なぁ、日下部」
「んー?」
「サンタクロースに言っといて。サンキューって」
「言っとく、言っとく。サンキューって」
日下部の台詞に天谷が噴き出す。
「何だよ、お前が言ったんだろ!」
そう言って、日下部は笑い、「なぁ、天谷、サンタクロース信じたか?」と訊いた。
「信じたよ、ばか」
そう言って、天谷は日下部に微笑んだ。
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