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第140話 テノヒラノユキヲ見ㇽ日26p
雪は本降りになって来た。
「直ぐ近くが駅で助かったな」
コートに付いた雪を手で払いのけながら言った日下部の台詞に、天谷は駅の看板がぼんやりと光っているのを見る。
(楽しい一日だった。沢山笑った)
天谷はそう思い返す。
(もう少し、この時間が続けばいいのに)
そんな考えが天谷の頭を過る。
「天谷、行こう」
言われて、「ああ」と短く返事をする天谷。
二人は駅にいた。
改札を潜ったが、ホームには行かずにいる。
「何か、随分遅くなっちまって。あっ、今更だけど、家の人とか、遅くなるの大丈夫だった?」
そわそわとして日下部が天谷に言う。
「あ、うん、大丈夫。うち、今日一日、誰もいないから」
下を向いて天谷は言った。
今日は天谷の両親はホテルに泊まりで行っている。
それはきっと、二人でクリスマスを祝うためだったんだな、と天谷は気付く。
特別な日は、義母と過ごすようにと父親にお願いしてあったから。
そうしてくれたら、いい子でいる、と約束したのだ。
「そか、一人か……」
「うん、日下部は?」
「俺は家族が家にいるけど」
「うん」
「なぁ、天谷」
「何?」
「もし良かったら、今夜、俺と……」
日下部が言葉を言いかけた時、スマートフォンの震える音がした。
天谷の物では無い。
日下部がコートのポケットを漁り、スマートフォンを取り出す。
スマートフォンの画面を見て「彼女から、電話だわ」と、日下部が言う。
日下部は、天谷にすまなそうにして、電話に出た。
「もしもし。うん、俺。うん、うん。悪かったって。……ごめん。うん、ああ。ん? あっ、うん。えっ、今から? あっ……わかった。じゃあ、今から行くから。じゃあ、後で」
日下部が電話を終えて、スマートフォンをポケットにしまう。
「彼女、何だって?」
何となく、わかっているけれど、天谷は訊いてしまう。
「ああ、彼女ん家、今夜誰もいないみたいで、それで、今から来て欲しいって……でっ……」
「行ってらっしゃい」
今、自分がどんな顔をしているのか、天谷にはわからない。
「ん、ああ。あっ、じゃあ、電車、反対方向だから。俺、行くわ。天谷、今日はありがとうな」
「俺も、ありがとう」
「じゃあ、な」
「じゃあな」
日下部が天谷に背を向ける。
日下部が歩き出す。
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