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第142話 蜜の指先1p
「後少しで夏休みだぁーっ!」
大学の校門を出て、小宮が伸びをして叫んだ。
日下部は、そんな小宮を見て笑った。
天谷は呆れた顔をしている。
今日の講義を終え、日下部、天谷、小宮は三人で帰るところだった。
ここのところ、三人揃って帰るのが、本当に珍しくなっていた。
小宮とは学部が違うし、日下部には日下部の付き合いがあって、天谷にも不二崎という友達がいて、それぞれが別の行動をしていたりするからだ。
でも、何だかんだで、この三人でいるのが一番落ち着くよな、と日下部は思った。
小宮は中学からの付き合いだし、天谷とは高校二年からの付き合いで、二人とも親友で(天谷とは恋仲になってしまったけれど)気のおけない仲間だ。
それは、天谷も、小宮もそう思っていて、そうだとわかることが日下部には嬉しい。
「なぁ、せっかく三人揃ったんだし、これから遊ばねー?」
小宮が言う。
「ん、別に良いけど、外は嫌だな、暑いから」と天谷。
「あー、じゃあ、俺んち来る? エアコン壊れてて扇風機だけど」
日下部が言うと、小宮が「行く行く! 日下部ちゃんち、お邪魔しちゃう!」と、はしゃぎだした。
「天谷は? 俺んちで良い?」
「別に良い」
天谷の一言で、日下部のアパートの部屋で遊ぶことに決まった。
「あー、じゃあ、ちょっと、スーパー寄っていい? レモネード作ってやるから。レモン買う」
日下部の台詞に、天谷と小宮が、「レモネード?」と、声を合わせる。
「うん、レモネード。今、ハマってんの。結構おいしいから、飲ませてやんよ」
「嬉しいけど、男の手作りのレモネードかぁ。どうせなら、可愛い女の子に作ってもらいてーな」
小宮がそう言うと、日下部は「何だよ、いらねーなら作らんぞ」と小宮を睨む。
「いやいやいやいや、そりゃもう、ありがたく頂きます! 兄貴のレモネード、ありがたく頂きます!」
「ちょ、やだ、兄貴のレモネードって名前」
天谷の顔が顰められる。
「お前ら、男のレモネードをばかにするなよ!」
日下部が叫んだ。
三人はスーパーでお菓子やジュース、そしてレモンを買って、日下部の住む安アパートの部屋へドタドタと入った。
「男三人だと流石に狭いな」
「お前が言うな、小宮!」
「悪い悪い」
小宮は日下部に断りもなくベッドの端に腰を下ろした。
そのことを日下部は注意したりしない。
日下部は窓を開け放ち、扇風機のスイッチを強に入れると「俺、早速レモネード作って来るから二人で適当にお菓子食べながら待ってて」と言う。
「俺も手伝う」
立ち上がったままの天谷が言う。
「別に大丈夫だから、ゆっくりしてて」
「いや、なんだか面白そうじゃん、男のレモネード」
「そう? なら良いけど」
「あっ、俺も手伝う!」
手を上げて小宮が言う。
「男三人も狭い台所に立ってたらむさ苦しいだろ! 小宮はいらないよ」
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