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第143話 蜜の指先2p
「ちぇっ! 何だよー。仲間外れかよ」
小宮はわざとらしく寂しそうな顔を作る。
「小宮、ウザいぞ。いいから待ってろ。ポッキー先に食べてていいから!」
日下部に言われて、「わーい!」と小宮。
「待ってる間、暇なんだけど、日下部、エロ本とかねーの?」
「あるか! ベッドの左下!」
「サンキュー日下部!」
「お前ら二人、中学生かよ」
天谷は白けた目をしていた。
「日下部、天谷、俺、ムードを出すため、イヤホン付けてムーディーな音楽聞きながらエロ本読むから、レモネード出来るまで邪魔しないでなー」
そう言って、イヤホンを耳に付けながら音楽を選ぶためにスマートフォンを操作する小宮。
小宮の膝の上にはすでにアダルト雑誌が乗っている。
「完璧なあほか!」
日下部が言うが、小宮には聞こえなかったようで、「ん、何?」と小宮は日下部にキョトンとした顔で訊く。
「もう知らねーよ! ばかはほっといてレモネード作るぜ、天谷!」
「う、うん」
二人は台所に立った。
台所と部屋は格子にすりガラスの入った襖で仕切られているが、今は襖は全開に開かれている。
こうすると、幾分か部屋は広く感じられる。
「えっと、まず何をすればいい?」
天谷が少し緊張した顔で日下部に訊く。
「まずは手洗いだな。天谷、先に洗って」
「うん」
流しの水道の蛇口をひねり、ネットで蛇口に括り付けられた石鹸をよく泡立てて、天谷は手を洗った。
「手拭き、そこにタオルあるから」
流しに付いている収納扉の取っ手がコの字を倒したようになっていて、そこにハンドタオルが通してあった。
天谷は日下部に「借りるぞ」と言って、タオルで手を拭く。
天谷の次に日下部も手を洗って、ついでにレモンも三つ洗った。
そして日下部は流しの横の作業台に置いてある白いまな板の上にレモンを転がすと「天谷、これ、二つ、半分に切って。包丁はそこの包丁差しにあっから」と言って、自分は流しの上にある戸棚からグラスやら、絞り器やらを取り出し始めた。
「は、半分に……」
天谷は緊張の面持ちでレモンを押さえて包丁を握る。
包丁を握る手に物凄く力が入っている。
危なっかしい手つきを見ていたら、日下部は手を出さずにはいられなくなって、天谷の背中に回り、天谷の背後から天谷の包丁を握る手に自分の手を添える。
日下部と天谷の体がピッタリとくっ付く。
「おい、ちょっと!」と、焦った顔で天谷が日下部を振り向く。
「ほら、包丁、ちゃんと握って。レモンもしっかり持つ」
日下部の真面目な声に、天谷は、「う、うん」と返事をする。
「包丁の持ち方は、こう」
日下部の手が、天谷の包丁を持つ手つきを直して行く。
「うん、いいじゃん。切ってみな。押しつぶすんじゃ無くて、スライドさせながら切る感じで」
天谷の手に自分の手を添えたまま、日下部は言う。
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