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第144話 蜜の指先3p

「わかった」  天谷は日下部の手に導かれて、レモンに包丁を差し込んでゆく。  レモンは綺麗に二つに切れた。 「やっ、やった!」  飛び上がりそうなほどに喜ぶ天谷。 「残り一つ、やれそうか?」  天谷の体から離れて日下部は訊いた。 「ん、大丈夫」  自信ありげに天谷は答えた。 「どうよ!」  レモンを半分に切り終わり、自慢そうに天谷が言う。 「良く出来ました。次はレモンを絞るから」  日下部は絞り器を取って天谷に見せる。  白いプラスチック製の絞り器。  日下部は百円ショップで買った。 「これで、レモンを絞って、グラスにレモン汁入れて、で、蜂蜜大匙一くらい加えて、氷入れてから水か炭酸水入れて混ぜんの」 「蜂蜜入れんの?」 「そ、蜂蜜。蜂蜜にハマってんの。何にでも蜂蜜入れるんだわ」  日下部は作業台に置かれた蜂蜜の瓶を手に取って天谷に渡した。  蜂蜜を手に取ると、天谷はじっくりと蜂蜜の瓶を見る。  琥珀色の蜂蜜が瓶の中にたっぷりと入っている。  ラベルには、百花蜂蜜と書いてある。 「それ、国産なんだぜ」 「へぇー」 「じゃあ、レモン絞るか」 「あっ、俺やりたい!」  天谷が目を輝かせ言う。 「大丈夫か?」  不安を露に日下部は言う。 「レモン絞るくらい訳ないって」  天谷にそう言われて、日下部はレモンと絞り器を天谷に渡した。  天谷はレモンを絞り器にグリグリと押し当てて、レモンを絞っていく。 「んーっ、中々、汁出ない。これ、わりと難しいな」  言いながら、一生懸命、レモンを絞る天谷。  レモンの爽やかな香りが広がっている。  どこか夏らしい香り。  日下部は、眉を寄せレモンを絞る天谷の姿を面白そうに見ている。 「ははっ、不器用なやつだな、天谷は。ま、そんなもんでいいだろ。汁、グラスに入れて」 「わかった」  日下部に言われた通りに、作業台に並ぶ三つの透明なグラスの内の一つに、天谷は搾りたてのレモン汁を入れた。 「何か、口の中、酸っぱくなる」  グラスに入ったレモンの汁を見ながら天谷は言う。 「わかるわ。次、俺が絞るな」  そう言うと、日下部はレモンを絞り器でギュッと絞る。 「おおっ! 日下部、すげー! 沢山汁出た!」  天谷が感心した様子で絞り器に溜まったレモンの汁を見る。  絞ったレモンの汁は、手早くグラスに移された。 「次も俺が絞るから。天谷、蜂蜜開けて、そのおっきいスプーンでそれぞれのグラスに入れてって」 「了解。俺の、蜂蜜、少な目でいい?」 「好きにしたら」 「うん」  次のレモンを日下部が絞り出した。  天谷は蜂蜜の瓶を開けようとしている。  しかし、蓋が硬いのか、中々、開けられずにいる。 「大丈夫かよ?」 「大丈夫うーっ! あっ、開いた!」  ため息をする日下部だった。

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