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第147話 蜜の指先6p
「やっ」
天谷はビクリと体を震わせた。
天谷は恐る恐る日下部の顔を見る。
日下部は企みのある顔をして天谷を見返した。
「日下部、何してんだよ」
声を潜め、天谷は言う。
「別に何も」
そう言うと、日下部は天谷の手のひらを両手で優しく包み、今度は天谷の指に付いている蜂蜜を下唇で塗り広げて遊ぶ。
その姿に、天谷は何だかくらくらする。
(やっぱりこんなの変。小宮がいるのに、こんな、こんなのっ……)
体中、熱くなるのを天谷は感じた。
それが、たまらなく嫌で、その熱から逃れたくて。
「も、やだ、くさかべ……くさかべってばっ」
泣きそうな声で天谷は日下部の名前を呼ぶ。
実際、天谷の目には涙が溜まっていた。
「そんなに嫌か?」
日下部が天谷の手を離し、訊く。
「やっ……」
嫌に決まってる。
そう天谷は言おうとしたが、言えなかった。
日下部が、あまりにも傷付いたような、そんな顔をしていたから。
(そんな顔されたら……)
天谷は戸惑う。
日下部の気持ちがわからなくて。
何でそんな顔をするのか、わからなくて。
わからないのが切ない。
「嫌じゃ……無い」
気が付けば、天谷はそう言っていた。
「本当に?」
日下部が天谷の顔を覗き込む。
「本当……だからっ、だから、早く……終わらせろ。小宮がいるからっ」
日下部から視線を逸らし、天谷は言う。
「わかった」
日下部はそう言って、天谷の蜂蜜で濡れた指のある手を再び掴む。
もう引き返せない。
天谷はため息と共に天井を見た。
レモンの香りがするな、と天谷はぼんやりと思う。
酸っぱい香り。
唾液が口の中に溜まって来る。
流しにもたれかかり、ぼんやりとした頭で下を見れば、跪いて天谷の指を舐める日下部がいる。
顔を上げれば、ベッドで雑誌を捲る小宮の姿が見える。
とても可笑しな感じだ。
天谷は、出来るだけ、レモンの香りに集中しなければ、と思った。
でも、日下部の舌が指を這うたびに、ゾクリと訪れる妙な感覚を、天谷は無視できないでいた。
その感覚が訪れるたびに、天谷は甘い息を吐き出し、耐えられない艶めかしい声を漏らしてしまう。
日下部は、舌で舐めるだけで無く、天谷の手を優しく解した。
それが気持ちよくて、天谷はとろりと溶けてしまいそうになった。
「んっ、んんっ」
漏れてしまう声を、必死で片手で塞ぐ。
小宮が気が付けば、何て思われるか、天谷は考えただけでおかしくなりそうだった。
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