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第148話 蜜の指先7p
「んっ……お前、前世は犬だったんじゃねーの? っつ……そんな、人の指、夢中で舐めてっ……」
強気な顔をして天谷は日下部を見下してみる。
日下部は顔を上げて、ニヤリと笑みを作り、「お前の前世はどうだったんだろうなぁ。指舐められただけで、そんな風に乱れちまうやつの前世ってさ」と言った。
「はぁ? 乱れてるって、誰が?」
「お前だよ。はら、こんな風に」
そう言うと、日下部は天谷の指の腹を下から上まで、ぞろりと舐め上げる。
「んぁっ」
たまらずに出た声に、天谷は慌てて口を塞いだ。
(やだっ、ゾクゾクする)
口を押えてオロオロしている天谷を、日下部がしてやったりという顔で見ている。
そんな日下部を見て、天谷から思わず舌打ちが漏れる。
「可愛くない犬だな」
天谷が皮肉を言ってやると日下部は笑って「お前は可愛いよ」と言う。
「なっ……」
「そうやって赤くなってなってるとことか、可愛い」
「やっ」
天谷は素早く腕で顔を隠す。
日下部が、ふっ、と笑う声が聞こえる。
(俺、こいつにめちゃくちゃ振り回されてるかも)
天谷がそんなことを考えているうちに、天谷の指は日下部の口の中に含まれる。
温かみを帯びた指の感触に、天谷の感覚は奪われる。
口の中で、日下部のざらりとした舌の感じと温かい口の中の感じとが天谷の敏感になっている指の神経を甘く刺激する。
「ふっ、あっ」
強く、強く、天谷は口を押える。
嫌なのに、嫌でたまらないのに、そのはずなのに。
何だか、もどかしい、と天谷は思ってしまう。
そのもどかしさはどこから来るのか。
日下部は、恍惚としたような表情で天谷の指に舌を這わせ、口を上下に動かして舐める。
日下部の動きに合わせるようにして、天谷の息は甘く漏れた。
「いや、もっ。小宮が、いるのに……小宮がっ」
天谷の薄く開いた目に、小宮の姿が見える。
何にも知らない小宮の姿が。
パイプベッドに座り、イヤホンで音楽を聴きながらアダルト雑誌を捲り、ベッドに散らかしたお菓子をたまに摘まんで、一人すっかりくつろいでいる小宮。
今、小宮のいる日常の世界と天谷と日下部の非日常の世界が台所と部屋で完全に遮断されている。
日下部と二人でこうしてから、どれだけ時間が経っただろう。
小宮だって、いつまでも一人で大人しくしてはいないはずだ。
日常と非日常の世界が交わってしまったらどんなことになるか。
天谷に焦りと不安がよぎる。
でも、それを押しのけて、別の何かが天谷を支配し始めている。
焦りや不安よりも、その何かが、天谷は怖かった。
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