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第152話 喧騒と静寂と後、何か1p

 昼時。  大学のカフェテリアで一人、天谷は学食の順番を待ちながら、外では蝉が盛大に鳴いていたことを思い出す。  カフェテリアは学生達によって実に騒がしい。  天谷は、カフェテリアに来たことを後悔していた。 (これなら、蝉の鳴き声の方がマシだな。外でパンとか食べればよかった)  普段は友人、不二崎と二人、中庭の木の下かベンチで昼食を取っている天谷。  だから、カフェテリアはほとんど利用しない。  天谷がカフェテリアに一人で来たのは初めてだった。  カフェテリアにはテラス席まであり、そのテラス席はすでに学生で埋まっていた。  中の席も、ほとんどの席が埋められている。  天谷の通う大学は学部も多く、中々大きなキャンパスだったから、昼時ともなれば、安くて美味いと評判の学食があるカフェテリアの席は直ぐに学生で埋め尽くされてしまうのだった。  天谷は、学食を受け取る為に並ぶ列の最後尾の列に食券を握りしめて並んでいた。  ぼんやりと順番を待つ天谷の肩が不意に叩かれた。  天谷がびっくりして振り向くと、そこには日下部の姿があった。 「よっ、天谷。お前が学食なんて珍しいな」 「うん」  日下部の顔を見て、天谷はホッとする。  天谷は食券を握る手を緩めた。  くしゃくしゃになった食券が、今まで天谷が相当緊張していたことを示していた。 「お前、もしかして、一人?」  辺りを見回し、日下部が、ズバリ言った。 「うん、今日、史郎、学部の仲間と話があるとかで、お昼一緒に出来なくて」  昼休みの時間になって、天谷が、いつも不二崎とお昼を共にする時に待ち合わせをする一階の中庭へ続く出入り口の前で待っていると、急いでやって来た不二崎が、すまなさそうな顔で、「ごめん、雨喬。今日、学部の仲間とちょっと話さなきゃならないことがあって。雨喬とお昼、一緒に出来ないんだ。ごめんね」と言う。  不二崎は、両手を合わせて天谷に謝った。  天谷は、慌てて「大丈夫だよ、史郎。俺、平気だから」と言った。  不二崎は、平気だ、と言う天谷を少し寂しそうな表情をして見る。 「後で連絡するから、じゃあ」  そう言うと、不二崎は、天谷を気にしながら去って行った。  開け放たれた中庭への出入り口から、蝉の鳴く声が聞こえる。  今日は外は暑い。 (たまには、カフェテリアにでも行ってみるかな)  何となく天谷はそう思って、カフェテリアへ足を向けたのだが、カフェテリアに着いて、酔いそうな人混みに、天谷は直ぐにカフェテリアへ来た自分を心の中でばかだと罵ったのであった。  しかし、天谷の目に、学食のメニューの『本日のおすすめ。冷やし中華始めました。男の冷やし中華。三百円』の文字が目に入る。  ごくりと天谷の喉が鳴る。 (男の冷やし中華……食べたい)  天谷は拳を握ると食券を買い、学食の列に並んだのであった。

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