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第154話 喧騒と静寂と後、何か3p

(ううっ、どうしょう)  天谷が沈んでいると「天谷!」と声がかかる。  その声のした方を天谷が見てみると、日下部だった。 「天谷、こっち来いよ。席、ここ空いてるから!」  日下部は自分の隣の席を指で示しながらそう言っている。 「えっ?」  天谷が見てみれば、確かに日下部の隣の席は空いていた。  だが、一斉に天谷の方を向いた日下部のグループのメンバー達の姿が目に入り、天谷は、うっ、と声を漏らした。  日下部を除き、クイーンと陰で呼ばれる女王、嵐を筆頭に、男女ともにお洒落な服装に身を包んだ集団の目にさらされて天谷は怯む。 (日下部の隣に座るってことは、あの一団に加わるってこと? あの、スクールカースト上位みたいなキラキラグループと一緒に食事……無理だ。それは無理だ)  天谷は日下部を無視して他に席を探そうとした。  すると、日下部が席から立ち上がって、こちらへやって来た。 「天谷、何やってんだよ。こっち来いよ。席、無いんだろ?」 「そうだけど、むむむ、無理。わかるだろ、日下部、俺には、あのお洒落集団と一緒に食事するなんてこと無理なんだよ。あんな集団といて食事が喉を通るか! 俺は地味に食事がしたいんだ!」  首を左右に振って意思表示する天谷に、日下部は「何訳わかんないこと言ってんだ」と呆れ顔で言う。 「あいつらのことなんか気にしないで座ってればいいだろ。ぐずぐずしてたら休み時間無くなるぜ」 「そ、そりゃそうなんだけど、でも……」 「さっきから、お前がウロウロしてるとこ、見てたんだよ。いいからこっち来いよ。ただ俺の隣に座ってればいいだろ。男らしく、どんと座ってればいいんだよ」 「お、男らしく?」  天谷の視線がトレーに乗った男の冷やし中華に注ぐ。 (うっ、日下部の言う通り、男の冷やし中華を食べようってやつが、こんなことで逃げてたらダメだよな。男が廃るよな)  一人頷き、天谷は気合が入った目で日下部を見て、「わかった。男らしく座る」と言った。  男らしさ、という言葉に弱い天谷なのであった。  天谷は緊張した面持ちで日下部の隣の席に座る。  珍しい物でも見るようなグループのメンバーの視線が天谷には痛かった。 「おっす、天谷」  嵐が天谷に声をかける。 「ん、嵐」  天谷が嵐をチラッと見ると、嵐が天谷にウインクをする。  天谷は恥ずかしさで、直ぐに嵐から視線を逸らす。  嵐は日下部の隣に座っていた。  天谷は、サッと、グループの面子を見てみる。  日下部を入れて六人のグループ。  みんな笑顔を浮かべていて騒がしく、明るくて、お洒落な服装に髪型で、いかにも大学生活を謳歌しています、という感じだった。  自分とは、別世界の住人達。  そんな印象を天谷は感じた。

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