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第155話 喧騒と静寂と後、何か4p

「天谷君とお昼とか、何かびっくり。天谷君、何か、人を寄せ付けないって感じがしてるから」  長い髪に毛を茶色に染めた可愛らしい女子が天谷を眺めながら言う。  天谷が彼女の顔をよく見てみると、それは桜の木の下で日下部に告白していた子だった。 (えっ、何? 何なの? この子って日下部の友達? 告白してたよな、日下部に、好きだって……何? どうなってんの?)  天谷は横の座る日下部を見る。 (日下部、どういう気持ちで彼女と友達関係続けてんの? さっぱりわからない。それに、嵐は日下部のこと好きだし。嵐のやつ、失点の? あの子が日下部に告白したって。何、このグループ、か、カオスじゃんか!)  嵐は日下部が好き。  長い茶色い髪の彼女は日下部に告白。  そこに、現在、日下部の恋人の天谷もいる。  非常にカオスな状況だった。  当の日下部は、この状況をわかっているのか、わかっていないのか、ただ、笑みを浮かべて、そこにいる。  天谷は深いため息を付いた。 「えっ、何のため息?」  日下部に告白した彼女がいぶかしげな顔をして天谷に言う。 「べ、別に何でも。人を寄せ付けないって、そうかな……」  実際、よく見ているな、と感心しながら天谷は言った。  天谷は、いつだって、俺に話しかけるなよオーラを纏っている。  そんな天谷に、普段、大学内で、必要な時以外に話しかける人間は日下部か小宮、嵐に不二崎だけになっていた。  天谷は完全に学部の幽霊と化していた。  そういう学生は天谷以外にもいて、だから別段、天谷が特別な目で見られることは無かった。  けれど、天谷が日下部の友達(では無いが)、ということは不思議がられていた。  だが、高校からの付き合いとわかれば、誰もが、「ふぅーん」と言って、一応の納得はしていた。  こんな風に。 「天谷君って、どうして日下部と友達なの?」  日下部に告白した彼女は、自分が若干失礼なことを言っていることを気付いている風もなく天谷に訊いた。 「うっ」と天谷は言葉を詰まらせる。  嵐が「高校からの友達なんだってさ」と日下部に告白した彼女に説明してやる。 「ふぅーん」と彼女。  天谷はお決まりのシーンにウンザリとする。 (なーんーだーよーっ! 俺が日下部の友達で悪いか? 俺にはわかる。お前が何を考えているのか。どうせ、日下部が俺のこと一人で可哀想とか思って友達やってる、とか思ってたんだろ? 言っとくけど、日下部の方から俺にくっ付いて来たんだからな! 俺は一切、日下部にお友達になって下さいとか言ってないからな! 何だよ、その可哀想なやつを見るような慈愛に満ちた目は! これだからリア充は!)  心の中で散々ぼやいた天谷は、ストレス発散と言わんばかりに割り箸を勢いよく割ると、男の冷やし中華を豪快に啜った。  紅ショウガが天谷の目に染みる。 「ぐっ、げほっ!」  喉に詰まらせた。 「お前、何やってんだ!」  日下部が慌てて天谷の口元にガラスのコップに入った水を運ぶ。  天谷は、その水をゴクリと飲んだ。  それを見た、嵐以外の女子から、「キャーッ!」と声が上がる。

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