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第156話 喧騒と静寂と後、何か5p

「やだー、水飲ませてやってんの? 日下部、過保護」  黒髪のボブヘアーに片耳にピアスを付けた女子がニヤけながら言う。 「熱い友情じゃん」  そう言って、唇にピアスをしたスキンヘッドの男子が冷やかし気味に笑う。 「日下部、俺にも水飲ませて」と、銀髪に髪を染めたロック風の服を着た男子。  嵐は黙って、日下部が天谷に水を飲ませているのを見ている。  皆に見られて、天谷に羞恥心が沸き上がる。  天谷はコップから口を離し、「もう大丈夫だから」と日下部に言った。  日下部が「本当に大丈夫か?」と心配げな顔で訊く。 「大丈夫だから。ごめん」 「ばか、謝んなって。ゆっくり食べろよ」  そう言うと、日下部は、天谷の髪に指を入れ、くしゃりと頭を撫でた。  それを見た女子から、また、「キャーッ!」と声が上がる。 「ちょっと、何なの、日下部。めちゃくちゃ天谷君のこと甘やかしてるぅー!」  日下部に告白した彼女が両手で口元を押さえながら顔を赤くして言った。 「日下部って、そゆことやんの? 意外だわ」と、黒髪ボブヘアーの女子。  嵐は眉を顰めて二人を見ている。  男子人は沸き立つ女子二人の反応に笑っている。  天谷は青い顔で完璧に固まっていた。  日下部はというと、余裕の表情で、「お前ら、うるさいな。これくらい、別に何でもねーだろ。俺、四谷の頭もよく撫でてるじゃん」と、四谷……スキンヘッドに視線を向けて言う。  四谷は、「お前に撫でられすぎて髪の毛生えて来ねーよ」と笑う。  メンバーたちも四谷の台詞に笑った。  天谷も、四谷のツルリとした頭を撫でる日下部の姿を想像して、そのあまりの可笑しさに少し気持ちが緩んだ。  メンバー達の話題は試験の話になる。 「試験疲れたね」だとか「夏休み追試になりそう」だとか、そういう話。  天谷は話には加わらず、ラジオのように話を聞き流しながら冷やし中華を、もぐもぐ食べた。  メンバーの話題はころころ変わる。  今は、来る夏休みの話になった。  試験期間は今日で終わり。  明日から学生たちは夏休みに入る。  夏休み、明日から旅行だ、と言う者もいれば、美術館巡りだと言う者もいて、天谷は美術館巡りの話に惹かれた。  夏休みの間、大小、色んな美術館を一人で巡ってみる、というもので、まずは鎌倉へ行ってみる、ということだった。  嵐は夏休みは、路地裏を中心に街をスケッチしながら散策したい、と言っている。  一人だと退屈だから、誰かと行きたいな、と日下部の方をチラリと見ながら嵐は言った。  その視線を、日下部に告白した彼女が追いかけるのを、天谷は複雑な気分で見たものだった。  日下部は、嵐の視線には気が付かなかったようで、嵐はため息をする。  結局、嵐のスケッチには黒髪ボブヘアーの女子が付き合うこととなった。  日下部のグループのメンバーの話を一人一人、良く聞いてみると、誰もが個性的で魅力的に感じられた。  日下部は、彼らの話をとても楽し気に聞いている。  日下部の口角はずっと上がりっぱなしだ。  その様子から、日下部が、彼らと適当に付き合っている訳では無いのだな、と天谷はわかった。

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