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第157話 喧騒と静寂と後、何か6p

(日下部、楽しそう。俺といる時はこんなに笑ってるかな? 俺、面白いこととか言えないもんな)  そんなことを、つい天谷は考えてしまう。  日下部は、きっと、彼らといると楽しいから一緒にいる。  じゃあ、自分は?  彼らの対極にいる自分といて、日下部は楽しいのか。  日下部も小宮も、不二崎も、何故自分の側にいてくれるのか。  日下部と小宮には和気あいあいとした仲間が、不二崎にだって同じ学部に気の合う仲間がいるはずだ。 (俺といるより、日下部はこの人らといる方が自然なんだよな……) 『天谷君って、どうして日下部と友達なの?』  さっきの彼女の台詞。  天谷は自分でも、たまに問いかける。  どうして自分は日下部の側にいるのか?  どうして日下部は自分の側にいてくれるのか?  その答えは未だ出ない。  日下部と一緒にいることが自然な彼らとは違うから。  卑屈な考えを抱く自分と彼らとは違うから。 「なぁ、日下部は夏休み、どうすんの?」  誰かがそう言った。  日下部の名前を聞いて、天谷は現実に引き戻される。 「ああ、夏休み? 八月十日まで、フルタイムでバイト漬けの毎日よ。その後は、バイトしながら、まぁ、色々」  日下部の夏休みの予定。  天谷は初めて知った。  日下部に訊きもしなかった。 「日下部、そんなバイトしてどうすんだよ。そんなに金稼いで何に使うの?」と銀髪ロックの男子。  日下部は、「うーん、秘密」と含み笑いで答える。 「えーっ、何それ!」  日下部に告白した彼女が甘えた声を出して言う。 「わかった、女だろ!」  四谷の一言に、女子全員に緊張が走った。  日下部は、「ははっ」とただ笑ってはぐらかした。  日下部はずっとアルバイトをしている。  アルバイトのお陰で天谷と過ごす時間も削られていた。  天谷は考える。 (日下部、夏休みもバイトか。しかも、フルタイムも入れてとか、何でそんなにお金が必要なわけ? 日下部がお金に困ってる風には見えないし。欲しい物でもある? 全然わからない。そもそも、日下部に何でバイトしてるのかとかも聞いたこと無いし。ダメだ、俺ってやっぱり日下部のこと何にもわかってない。俺たち付き合ってるんだよな?)  天谷の口からため息が漏れる。  天谷は男の冷やし中華を完食していた。  あんなに楽しみにしていた男の冷やし中華の味を、天谷はよくわからなかった。  お腹はいっぱいなのに、満たされない。

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