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第158話 喧騒と静寂と後、何か7p

 空いた皿を見つめながら、天谷はしばらく日下部や嵐や、日下部に告白した彼女やらの話を黙って聞いていた。  彼らの、終始溢れる笑い声、弾む話を聞けば聞くほど、自分の居場所はここでは無いのだな、と天谷は悟る。  でも、日下部の居場所は、確かに彼らの中にあった。  日下部が笑っている。  そのことが、何て切ないんだろう、と天谷は感じる。  天谷は、空いた皿の乗ったトレーを手に持ち、席を立つ。  日下部が天谷を見上げ、「どうした?」と訊く。 「俺、今から図書室行って来る」  静かに天谷はそう言った。 「図書室って、今から?」  そう言って、嵐がスマートフォンで時間を見ながら眉を寄せる。 「うん、休み時間に読みたい本あったから」  嘘だ。 「そうなんだ。じゃあ……」  嵐は微妙な表情で、メンバー達の顔を見回す。 「あっ、ああ。じゃあ、またね」  そんな声が一人一人から漏れた。  皆の顔は嵐同様、微妙な表情を作っている。  彼らが何を考えているのかを、考えないようにして、天谷は、「ん、また」と言い、皆に背を向ける。  後ろで日下部の声を聞いた気がしたが、天谷は気が付かないふりをして振り向かなかった。  カフェテリアを後にした天谷は、図書室に行く途中、手洗いへ寄った。  細長い、幾つもの蛇口の並ぶ洗面台に立ち、流れる生暖かい水で手を洗いながら、天谷は鏡に映った自分の顔を見てみる。  疲れたような、影の差した自分の顔。  ある人の言葉が天谷の頭に浮かぶ。 『お前の顔を見ているだけで憂鬱になるの。出来るだけ顔を見せないように自分の部屋へ入ってて!』  天谷は、ふっ、と笑った。 (俺もそう思うよ、母さん)  天谷は蛇口を思いっきり捻ねり、水を止めると、濡れた手で前髪をいじり、顔を隠した。  この大学の図書室は広く、建て替えたばかりで綺麗だった。  建て替えられたのは二年前だという。  まだ、新しい空気が残っている。  天谷は天井まで伸びている、迷路のような本棚の列から、好きな作家の小説を直ぐに見つけ出すと、適当な席に着き、小説のページを開いた。  小説の文章を追いながら、段々と物語の世界へ入って行く。 (やっぱり一人が落ち着くな)  自分に言い聞かせるように、天谷はそう思う。 (夏休みは一人で本を読んで過ごそう。図書館に毎日通って……がっこの図書室に来てもいいけど、誰かに会ったら嫌だし)  本に埋もれて過ごす夏。  静かに、ただ、蝉の鳴き声だけを聞いて過ごす夏。  自分には、これでいい。  手に持った小説に、天谷は、ギュッと指で圧を加えた。

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