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第159話 喧騒と静寂と後、何か8p
デッサン教室にて。
デッサン教室は、主にデッサンに使われる石膏像だとか果物のレプリカだとかが置いてある教室で、そこで学生たちはデッサンを行う。
天谷はここで今まで、石膏で出来た右手のデッサンをしていた。
今日の講義は、このデッサンで終了となる。
先ほど、終わりを告げるチャイムが鳴ったばかりだった。
天谷は自分とは離れた窓際の席に座る日下部に視線を向けた。
日下部は、窓から入る風で膨らむカーテンに包まれながら、デッサンの対象である石膏の白い手に難しい視線を向け、だんまりとしている。
(まだ、描き足りない所でもあったのかな)
天谷がそんな風に考えているうちに、日下部はカフェテリアのメンバー達に囲まれた。
日下部が途端に笑顔を作り、話を始める。
日下部は「夏休み、バーベキュー楽しみだな」なんて言っている。
どうやら、あのメンバーで、夏休み、バーベキューをすることになったらしい。
天谷はリュックを手に持ち、立ち上がると、足早に教室を出た。
息苦しいのは速足で歩いているからなのか。
天谷は、早く外の空気が吸いたくて夢中で足を動かした。
玄関ホールに着いて、出入り口から漏れる光に向かって飛び込むように走った。
天谷は日の光の眩しさに目を瞑る。
天谷の瞼の裏がチカチカとする。
「天谷!」
名前を呼ばれて、その声が誰の声なのかわかってしまう自分が天谷は何だか嫌だった。
天谷は振り返る。
息を切らせた日下部がいた。
「何?」
素っ気なく天谷は訊いた。
日下部は、はぁはぁと、息をしながら、「お前と帰りたかったから追いかけて来た」と話す。
「別に、俺と一緒じゃ無くたって友達いるだろ」
そんな言葉が天谷から漏れると、日下部は眉間に皺を寄せて、「はぁ? 何だよ、それ?」と言う。
天谷は一人で歩き出した。
日下部が慌てて天谷の後を付いて来る。
「なぁ、何か怒ってる?」
日下部が天谷の横に並び、訊いた。
「別に」
ツンとして天谷は答える。
二人はしばらく黙ったまま、大学の銀杏並木を歩いた。
銀杏並木が終わり、校門が見えたころ、日下部が、「なぁ、天谷、夏休みのことなんだけど、俺……」と話し出した。
天谷は「知ってる。バイト三昧に、バーベキューだろ。聞いてた」と、淡々として言った。
自分は何故、さっきから日下部に冷たい態度を取っているのか。
凄く嫌なのに、どうしてこんな風になるんだろう。
天谷の心に曇りが差す。
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