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第161話 喧騒と静寂と後、何か10p

「そのためだけってわけじゃ無いけど、まぁな。とにかく、何にも心配いらないから」 「そんなの、そんなのダメだ。日下部が俺の分までお金出すとか、そんなのって……あっ、もう良くわかんない。どうなってんの? 夏休み、日下部と二人で旅行? えっ? ええっ?」  天谷はたじろいだ。  急に降ってわいた話に天谷は今更ながらびっくりして話に付いていけない。 「えっ、やっぱり旅行、嫌?」  日下部の顔が曇る。  そんな日下部の顔を見ると、天谷は胸が苦しい。 「嫌、とかじゃ無くって、だって、日下部は……日下部は、俺といて楽しいのかよ。俺なんかと旅行して、お前に何の得があるんだよ? 俺なんか、暗いし、愛想悪いし、日下部とは趣味も合わないし、一緒にいたってつまんないだろ。なのに、何で二人で旅行行こうなんて言うんだよ。俺と二人でいて、日下部はどうしたいわけ? 友達がいんじゃん。友達と楽しく旅行言ったらいいじゃんか!」  言うだけ言って、天谷は沈黙する。  日下部の顔なんか見ていられなかった。 (ほら、また。俺なんて、日下部にこんないじけたことしか言えないじゃん)  日下部の、ため息が聞こえる。  そのため息に、天谷は怯えた。 「天谷はさ、俺といて、つまんねーの?」  言われて、天谷は首を振る。 「だったら、変なこと考えないで俺の側にいたら?」 「だって」  これ以上下を向けないほど、天谷は俯く。  また、日下部のため息が聞こえる。  日下部のため息の原因は自分にあるのだと、そう思うと天谷は心の底に沈みそうになる。  日下部の沈黙が怖くて、天谷はうるさい蝉の声に集中した。  いつまで、ここで下を向いているんだろう。  日下部の前で、いつまで下を向いているんだろう。  天谷には永遠に思われたこの時に、不意に、日下部が天谷の腰に腕を回し、天谷を引き寄せた。  天谷は日下部の腕の中で目を瞬かせる。 「日下部っ、こんな所でっ!」  通学路になっている道の真ん中での出来事。  焦る天谷の耳元で、日下部が囁く。 「どこだっていい。離さないから、側にいてよ」  真面目な顔で、そんなことを言う。 「なっ……」  日下部の言葉に、天谷は溶かされたように力が抜けた。  天谷の胸が、ドキドキと鼓動する。  それだけで、天谷の心の曇りに光が差す。  日下部の側にいる理由が欲しい。  どこだって、安心して側にいたいから。  だから。 「わかったから。離せ、ばか」  顔を赤く染めて言う天谷を日下部が笑う。 「お前はそれでいいんだよ」 「何だよ、それ!」 「あっ、怒る?」 「もう、お前のことなんか知るか! ばか!」  気まぐれでもいい。 「何だよ、可愛くねーな!」 「可愛く無くて結構だよ!」  甘い言葉なんかいらない。 「天谷」 「何だよ、日下部」  雲の間から一瞬に差す日の光みたいに。 「お前といると、幸せ」 「…………」  頼りなくて、ささやかな絆でも繋がっていたい。  例え、それがみっともないことでも、今は…………。  日下部の気まぐれが続きますように、と天谷は願う。  何故だか、蝉の声が、いつの間にか心地いい。  日下部の声と重なる、蝉の声が。  終

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