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第162話 恋人アプリやってみました1p
夏休みに入り、天谷は日下部との旅行へ行く間に毎日図書館へ通うことにした。
今日も朝から市の図書館へ出掛ける。
市の図書館は大きく、新刊も沢山入るので天谷は気に入っている。
図書館通いには、不二崎もたまに同行することとなったが、今日は天谷一人だ。
天谷は図書館へ向かうために、ゆっくりと駅までの道を歩いていた。
マナーモードになっている天谷のスマートフォンがリュックのポケットで震えている。
天谷がスマートフォンを確認してみると、日下部からメールが入っていた。
天谷はグループチャットを使わないので、電話以外の連絡はもっぱらメールになっていた。
天谷がメールを開いてみると、日下部からこんなメッセージが届いていた。
『天谷、おはよう。俺、これからバイト。お前、飯ちゃんと食ったか?』
(またか)
返信するのが面倒くさくなった天谷は日下部に電話をかける。
日下部は直ぐに出た。
『もしもし、天谷。おはよう』
「おはよう。今、電話、大丈夫?」
『大丈夫、大丈夫! 何? お前、電話してくるとか、俺の声とか聞きたくなっちゃった?』
「まさか。それより日下部、お前、毎日、飯のこと訊いて来るの、何とかなんない?」
天谷はうんざり、と言うのを声に出して言った。
夏休みに入ってから、日下部から天谷に、朝と昼、そして夜にメールか電話がある。
話の内容は、天谷の健康状態を気遣うもので、毎日、ご飯は食べたか、と日下部は天谷に確認するのであった。
『だってさ、お前、晩飯何食ったかって訊いたら、ポテチのコンソメ食ったとか恐るべきこと言うんだもん。だから、心配でさ。なぁ、今日の朝は何食べた?』
自分の食生活に無頓着な天谷は、食事をお菓子で済ませてしまうことがあった。
天谷が取る、ちゃんとした食事といえば、日下部の部屋に遊びに行った時に日下部に振舞われる手作りの料理くらいだった。
「ん、朝? シリアル食べた」
『シリアルか。まぁまぁだな。昼、ちゃんとした物食えよ。お菓子じゃないやつ』
「わかったよ。で、他に用事はある?」
『特に無し。あっ!』
「何?」
『行ってらっしゃいのキスして』
「はぁ?」
電話に向かって思い切り声を上げる天谷。
『いや、俺達、付き合ってるじゃん。電話でキスくらい良くね? お前が行ってらっしゃいのキスしてくれたら、今日一日のバイトも頑張れるってもんだし』
当然のように日下部はそう言う。
(何か、日下部のやつ、膝枕の時から俺との距離、近くない? 行ってらっしゃいのキスとか、トレンディなドラマの世界のみの話じゃねーの? それか、熱々カップルとか? わからない。何にしろ恥ずかしくてやってられるか!)
日下部とそういうことをする自分を想像してみようとするだけで天谷は顔がほてった。
「無理だから」
きっぱりと天谷は言う。
『何だよ、寂しいな。ただでさえ、ここ五日間も会ってないんだぜ。それくらいサービスしろよ』
夏休みに入って五日目。
天谷と日下部は全く会っていなかった。
日下部は掛け持ちでアルバイトをしていて、毎日忙しく、とても天谷と会う時間は持てなかった。
でも、日下部は、それも旅行のため、と頑張っていたのだ。
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