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第163話 恋人アプリやってみました2p

(うっ、そうだった。日下部と全然会ってないんだ。どうする? 恋人として、ここは日下部の言う通りにすべき? でも、恥ずかし過ぎて無理! 日下部への気遣いより、羞恥心の方が勝ってる!)  天谷が心の中で葛藤していると、日下部が、『あっ、もう俺、駅着くわ。じゃあ、また連絡するから』と言って電話を切った。 「あっ、切りやがった。勝手なやつ」  天谷も丁度駅に着いた。  改札を潜り、ホームに立っていると電車は直ぐに来た。  電車に乗って四駅。  そこで降りて、十五分ほど歩けば図書館だ。  天谷は電車の空いた座席に座り、リュックから単行本を取り出し、それを読み始めた。  天谷は電車の中では必ず本を読む。  眼鏡をかけて、じっと本に向き合う天谷の姿は、いかにも文学青年然としていて実に様になっていた。  天谷の向かい側の座席にはセーラー服の女子高生二人組が座っており、話に花を咲かせている。 「ねぇ、最近、どう? 彼氏とは?」 「えーっ、彼氏ぃ? うふふっ、いい感じ。ほら、この間、カナエに教えてもらったアプリ。あれ使ってみたら冷たかった彼氏の態度も変わってさー」 「えー、良かったじゃん。あのアプリ、なかなか使えるよね」 「うん、結構使ってる子いるみたい」 「何せ、無料だしね」  二人の話は随分と盛り上がっている。 (何? 無料のアプリ? ふぅーん)  天谷は、二人の会話に興味は示さずに、本のページを無言で捲る。  女子高生二人組の会話は続く。 「カナエはどう? 彼氏と」 「良い感じだよー。この間のデートさ、アプリのアドバイス通りにやったら、もう、彼、めちゃ喜んでくれて。あのアプリ、結構神ってるよね!」 「言えてる。私、彼氏に会う前は、アプリでついつい彼氏との会話、シュミレートしちゃう。アプリの通りにすると、彼氏ったら……キャーッ!」 「えっ、何? 何があったの?」 「えーっとねぇ」  女子高生二人はひそひそと話す。 「キャーッ! マジで? 凄―い!」  ひそひそ話は流石に天谷の耳には届かず、天谷はもやっとする。 (な、何だよ。アプリの通りにして、彼氏と何があったんだよ!)  天谷の本のページを捲る手は完全に止まった。 「本当、恋愛の神様だよね、あのアプリ」 「ね、神だよ」  女子高生達は、はしゃいでいる。 (恋愛の神様? どんなアプリだ?)  天谷はもう、女子高生達の話題が気になって仕方が無かった。 「本当、神。恋人アプリは」  電車が止まり、女子高生二人組は電車から明るい声を上げて降りて言った。  彼女達の後ろ姿を天谷は目で追う。  扉が閉まり、電車が動き出す。 (恋人……アプリ?)

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