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第164話 恋人アプリやってみました3p
天谷は手に持った本の続きを読もうとページに目を落とした。
(恋人アプリ……恋愛の神様)
天谷は本を閉じ、リュックのポケットからスマートフォンを取り出す。
そして、ネットを開いて、恋人アプリを検索してみる。
恋人アプリは直ぐに検索にヒットした。
『恋人アプリ。十万人ダウンロード突破! 無料の恋愛ナビゲーションアプリ。恋人との仲、もっとアゲたいアナタに』
天谷はアプリのレビューを見てみる。
(なっ、どのレビューも星四つ以上? 異常だ)
レビューは、このアプリ、神! の嵐だった。
天谷はレビューを上から下までくまなく読んだ。
(えーっと、恋愛に不器用だった俺。このアプリで彼女の気持ちをやっと掴めた気がします……えっ、このアプリって男子も使ってんの? ふむふむ、仕事に疲れ切った彼、アプリのナビゲート通りに彼に接したら、彼がみるみる元気いっぱいに。私への愛情もアップで……そういや、日下部、疲れた声してたよな。やっぱりバイト、キツイのかな。俺で協力できることがあったらいいんだけど……)
天谷はゴクリと唾を飲み込んだ。
(恋人アプリ……)
天谷のスマートフォンの画面は恋人アプリのダウンロード画面に切り替わっていた。
(こ、このアプリで本当に、恋愛に不器用な人間が何とかなるのか? バイトで疲れた日下部を元気いっぱいに出来るのか?)
天谷の指が、スマートフォンの画面をさ迷う。
(ええーいっ! ままよ!)
天谷の指が、ビシッとスマートフォンを打つ。
ダウンロード開始である。
(ああっ、ダウンロードしちゃった。はっ、恥ずかしい。恋人アプリだぜ? 名前、何とかなんないのかよ! うわぁーっ! 俺は取り返しのつかないことをしたんじゃないだろうか? はうぅぅぅぅっ!)
恋人アプリをダウンロード中に、恥ずかしさで一人もだえ苦しむ天谷。
他の乗客は、そんな天谷に怪訝な顔を向けているが、そんなことを天谷が気付くはずも無いのであった。
恋人アプリのダウンロードが終了すると、天谷は震える手でスマートフォンを見つめた。
(マジでダウンロードしちゃった。ど、どうしよう)
電車が止まる。
天谷が降りる駅だ。
天谷はふらりと立ち上がり、電車を降りた。
図書館へ向かう間、天谷の頭の中は恋人アプリのことでいっぱいだった。
それは、図書館に着いてからも同じ。
天谷は本棚から抜いた本を机の上に広げたままに、スマートフォンのホーム画面を見ていた。
赤いハートマークのアプリがある。
恋人アプリである。
様々なアプリがある中で、恋人アプリのハートマークは目を引く。
(ちょっと見るくらいなら)
そう思って天谷はアプリを開いてみた。
スマートフォンの画面に、『ようこそ! 恋人アプリへ!』とピンク色で可愛らしく書かれた文字が現れる。
天谷は目がチカチカして、眼鏡をかけ直した。
スマートフォンの画面では、続いて、アプリの説明が始まる。
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