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第170話 恋人アプリやってみました9p

 日下部のバイト先の先輩が前髪を切るのを失敗した話とか、日下部のバイト先のお客さんの話が長くて日下部が注文を忘れた話とかを天谷はメールで聞いた。  話を聞きながら、天谷は、そう言えば日下部は何のバイトをしているんだろう、と思った。  思ったが、今更聞けなかった。 『メール、長くなってごめんな。俺、そろそろ仕事戻るわ。天谷、ゆっくり本読んでな』  日下部からそんなメールが来て、二人のメールでの会話は終わりになった。  天谷は長い日下部からのメールの履歴を見て笑う。  カロリーメイツも牛乳もとっくに天谷のお腹の中へ消えていた。  天谷は席を立ち、リフレッシュルームを後にする。  売店に寄って牛乳の瓶を瓶の置き場に置いた。  空の牛乳瓶置きは、木で出来た四角い箱に黄色のペンキが塗られている物だ。  天谷の他に、三つ、空の瓶が置いてあった。  売店の中を見れば、男女の客が入っていて「軽井沢、楽しみだね」何て女の方が話していた。  二人は手を繋いでサンドイッチを選んでいた。 「二人で図書館でガイドブック見るとか、楽しいよな」  男の方が言う。 「うん」と女。  二人は付き合っているのだな、と見た目にでもわかる。  いかにも恋人らしい。  夏に、二人で軽井沢へ旅行、というところか。  二人の会話は弾んでいる。  幸せそうな二人を、天谷は複雑な顔で眺める。  天谷はそっと、売店を離れた。  図書館の机の前に戻った天谷は、頬杖をついてぼんやりとしていた。  ぼんやりと考えるのは、日下部とのさっきのメールのやり取りのこと。 (さっきの日下部との会話、大丈夫だったかな。他人行儀とかって。でも、その後、普通に話したし、大丈夫だと思うけど……普段慣れないことすると心配だ。しかし、ラブラブ度診断のアドバイスが無かったら、ばかとか言った後で普通に会話なんて出来なかったよな。うん、助かった)  天谷は机の上に置いたスマートフォンを手に取る。  そして、恋人アプリのアプリを開いた。  画面はラブラブ度診断のアドバイスのままだ。  天谷は画面を見つめたまま、迷って、そして、次へのアイコンを押す。  画面が切り替わる。  次の画面からいよいよ、恋人アプリのメニュー画面だ。  恋人との仲をバックアップする気満々の、恋人アプリ開発室の気合のこもったコンテンツの数々。  コンテンツを見る天谷の頭には、夏休みに日下部と行く旅行のことがあった。 (電話でのやり取りも、ままならない俺が、二人きりで旅行とかって、果たして大丈夫なんだろうか? 恋人同士の旅行ってどんな感じにすればいいわけ? このアプリに何かそれらしいアドバイスあんのかな?)  天谷の脳裏に、さっき売店で見たカップルの姿が浮かぶ。  まさに恋人同士という二人。  二人でとても楽しそうに旅行の話をしていた。

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