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第178話 恋人アプリやってみました17p

「ごめん……」  アナタは彼に、そう一言。  彼は切なそうな顔をして、「わかった」と言って、アナタの体から離れる。  そして、彼は、アナタに背を向けて、「お休み」と、そう一言う。  アナタは不安になって彼の名前を呼ぶけれど、彼から返事は無くって……。  仕方なく、アナタも彼に背を向けて目を閉じる。  同じ布団で眠っているのに、何だか彼との距離がやたらと遠く感じるアナタ。  やがて、アナタは眠りに落ちてゆく。  画面には、お互い、背を向けて眠る二人の絵。  就寝シーンは終了となった。  このイベントでの恋愛ボルテージは上がらず。  背を向けあって眠る恋人二人の絵に、自分と日下部を重ねてしまい、天谷は落ち込む。  たかがゲーム、されどゲームの天谷なのであった。 (つ、疲れた。恋愛ボルテージ上がらず、か。長いイベントだったな。実際、こういう場面に俺が遭遇することって有り得るんだろうか? もしも、こんなことになったら、俺は死ぬかもしれない。はぁっ)  気の抜けた天谷は、スマートフォンを置き、両腕を組んで机にうつ伏せになる。  天谷を疲労感が一気に襲う。  適度に暖房の効いた図書館は、天谷を眠りへと誘う。  うとうとし始めた天谷だったが、誰かのくしゃみの声で、重くなり始めた瞼を開いた。 (あっ、そうだ……恋人アプリ。旅行の続き……)  天谷は再びスマートフォンを手に取った。  画面はすでに切り替わっており、朝のシーンに入っていた。  天谷はシュミレーションを再開させる。  同じ布団の中で目覚めた二人。  アナタは彼に、「おはよう」と言う。  彼は、「おはよう」と返してくれたものの、何だか様子が変。  もしかして、夜のことが関係しているのかも、と思うアナタ。  そう思ったら、アナタは何だか気まずくなってしまう。  彼も何だか気まずそう。 (やっぱり気まずくなるもんなのかな……でも、他にどうすれば良かったんだ? 誰か教えてくれよ! ううっ、終わったことを気に病んでも仕方ないよな。うん、これから挽回しよう!)  そう思ってシュミレーションを続ける天谷だったが、恋人のテンションが何となく低いのと、天谷が恋愛に不器用なのが相まって二人の空気はいまいちであった。  恋愛ボルテージも上がらず、天谷の表情はどんどん曇ってゆく。  すれ違いすら生じる事態に陥り、シュミレーションは最後のイベントを迎える。  帰りの新幹線の到着を待つ、彼とアナタ。  彼はずっと無言でいる。  そんな彼に、何か言わなきゃ、と思ったアナタ。  ここで選択肢。 『無言の彼に、アナタは何て言う?』  どんよりとした気持ちの天谷の目の前に、選択肢は現れる。  一つ目の選択肢。 「旅行、楽しかったね」と明るく言う。

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