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第182話 恋人アプリやってみました21p
本の世界はいつだって天谷を優しく受け入れてくれる。
その世界に、ずっと籠って出て来れなくなったら良いのに、と、天谷はかつて思っていた。
しかし、そんな天谷を日下部と小宮が変えてしまった。
高校のころ、三人でいる時、小宮がこんなことを言った。
「俺達三人でいれば、何があっても怖くない。俺達は最強なんだよ」
その時、天谷は笑った。
日下部も笑っていて、小宮ももちろん笑っていた。
天谷は、その時、その言葉は本当なんだと思えた。
二人がいれば、天谷は最強で、何があっても怖くない。
日下部と小宮と、これからもずっと三人でいるはずだった。
大学も、同じ大学に三人で入って。
けれど、大学に入って、なんだか三人の関係は変わったように天谷には思えた。
高校のころは何をするにも、どこへ行くにも一緒だった三人なのに、大学に入ってからはそれぞれのサイクルが出来てしまっている。
日下部には日下部の仲間が、小宮には小宮の仲間が、天谷には不二崎が。
不二崎の存在は天谷には大事だ。
しかし、日下部と小宮との関係も大切なのだ。
最近、天谷が大学で、日下部と小宮と一緒にいることはほとんど無くなってきている。
日下部と小宮は気さくに話しかけて来るけれど、二人は常に友達に囲まれていて、そんな二人の輪の中に入ることを、天谷の方が遠慮してしまうのだ。
日下部とは、今、付き合ってはいる。
日下部の側にいる理由が天谷にはある。
それが無くなってしまったら、日下部は自分のことなんか忘れてしまうかも知れない。
それが天谷には怖かった。
今回の旅行、もしも、日下部と気まずくなるようなことがあったなら、もしも、そのまま嫌われてしまうことになったなら、天谷はそれが怖かった。
友達にすら、戻れなくなることが。
天谷が本を読み始めて四十分余り。
すっかり時間を忘れて。本にのめり込んでいた天谷のスマートフォンが静かに震えた。
天谷は、ハッとして、本を置き、スマートフォンを手に取る。
スマートフォンを開いてみると、メールが一件来ていることを告げていた。
天谷は心を震わせながらメールを開く。
メールの相手は恋人アプリ・カスタマーセンターだ。
天谷はメールを読んだ。
『@あま様、ご連絡が遅くなり、大変申し訳御座いません。恋人アプリ・カスタマーセンター担当赤式と申します。まずは、先にお問合せ頂いた件、ご満足頂けたようで何よりで御座いました。』
(担当、また赤式さんだった。良かった)
担当が赤式でホッとする天谷。
どういう人物だかは不明だが、赤式という人間は、天谷が頼った初めての他人である。
天谷は、今まで、日下部と小宮以外の人間を頼ったことが無かった。
そもそも、誰かに頼るということが苦手な天谷なのであった。
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