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第183話 恋人アプリやってみました22p

 しかし、カスタマーセンターの担当、という特殊な関係ではあるが、天谷は赤式に少しだけ信頼を寄せていた。  カスタマーセンター担当ともなると、人を信頼させる術を知っているのだろうか。  天谷は再びメールを読み始める。 『今回のご質問ですが、まず、当アプリの利用によって、@あま様をご不安にさせてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます。今後、ユーザー様にご安心して当アプリをご利用頂けるよう、改善を尽くさせて頂きます。  @あま様は恋人様と、ご旅行の予定がおありとのこと。しかも、恋人様とは初めてのご旅行なのですね。  戸惑いや不安があるのは当然のことと存じます。  今回、シュミレーションモードをご利用されたということですが、ナビゲーションモードをご利用されることをお勧めさせて頂きます。  ナビゲーションモードですと、旅行の際に取ると良いリアクションを詳しい解説を入れてナビゲートさせて頂いているので、戸惑いも少ないかと存じます。 是非、ご利用になってみて下さい。  以上が、マニュアル通りのアドバイスとなりますが、以下は、わたくし赤式個人の話で御座います。  同性の恋人同士であること、お話下さり有難う御座います。  先の返信でお伺いさせて頂いたことですが、@あま様は、今の恋人様が初めての恋人でしょうか? 失礼なことでしたら誠に申し訳御座いません。恋愛は、初めは誰しも、思うようにいかない物です。戸惑いや不安、すれ違いを経験することも御座います。  ですから、@あま様が、今の恋人様との恋が、初めての恋だとしたなら、シュミレーションモードの結果は当然と言えば、当然の結果。@あま様だけが、そうした結果を踏んでいる訳ではありません、全ての初恋を踏む人々がそうなのですから、あまり気に病むことではありませんよ。』  温かい赤式からの言葉に、天谷はじんわりと涙腺が緩む。 (ううっ、赤式さん、ありがとうございます)  涙を拭いながら天谷はメールの続きを読む。 『しかし、苦い結果を生かすも殺すも、@あま様次第で御座います。シュミレーションモードの結果を是非、活かして素敵な旅行にしましょう。  勿論、@あま様に無理や我慢をしろ、と言うのではありません。全て恋人様の意に沿うようにするのが正しい選択でも、勿論ありません。  ただ、当アプリのシュミレーションモードの選択肢の結果は十分に参考になるもの、とお心に止めて置いて頂きたいです。それは、選択肢によって出た結果のようなことが起こり得る場合がある、と言うことで御座います  @あま様は正しい選択通りに進めないと、恋人様との関係がマズくなる場合があるのか、とご心配されていらっしゃいますが、そういった場合も有り得ます。  特に、旅行での恋人様からの夜のお誘いをお断りした場合は、シュミレーションモードの結果の通り、その後の関係が高確率で気まずくなる場合が御座います。  勿論、絶対ではありません。』  天谷の頭に一気に暗雲が立ち込める。  恋人アプリ開発室が自信を持って世に送り出したであろう恋人アプリ。  そのアプリのシュミレーションモードの結果に、赤式は自信を持っている様子だ。  たかがアプリ。  されどアプリ、だ。  赤式からのメールは続く。

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