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第190話 恋人アプリやってみました29p
天谷は、リフレッシュルームへ戻ろうかどうしようか迷ってから、メールを読みながら売店へ向かうことにした。
リフレッシュルームは図書館の二階にあり、売店は一階にあった。
階段に差し掛かり、天谷は慎重に緑色の階段を踏みながらメールを読んだ。
『恋人アプリ・カスタマーセンター担当赤式で御座います。
@あま様、お返事有難う御座います。
わたくしの解釈で大丈夫とのこと、安心致しました。
@あま様は、恋人様とのご関係について、やはり、随分と長くお悩みだったのですね。
さぞや辛い日々をお過ごしだったことと思います。
@あま様が恋人様と、友達のようなご関係が続いている、とおっしゃるのは、恋人様の愛情をあまり感じていらっしゃらないからなのだと思います。
友達から恋人関係になると、やっぱり気恥ずかしさもあり、恋人様も、素直に愛情を表せなかったりするのかも知れませんね。
失礼ながら、それは、@あま様に関しても同じことが言えることかと思いました。
@あま様は、恋人様に対する自分のお気持ちがわからなくなっているようですが、@あま様の中に恋人様に対する愛情は、やはり、あるのではないでしょうか。
だって、恋人様に嫌われたくない、と思っていらっしゃるのですよね。
旅行に誘われて嬉しかったのでしょう? どうもいい相手から旅行に誘われたって一ミリも嬉しく無いもので御座いましょう? 逆に困ってしまうものです。
@あま様は、恋人様に嫌われまいと、日々考え、悩んでいらっしやる。苦しいほどに、恋人様のことを考え、悩んでいらっしやる。それは、恋人様を愛するがゆえだからでは御座いませんか?
@あま様は、恋人様の側にいたいのですよね?
嫌いな人間の側にいたいと思いますか?
@あま様は、恋人様と離れるのが苦しくて、ずっと友達のままなら良かったのかな、とおっしゃっていましたが、友達でもいいから側にいたいだなんて、恋する方の台詞ですよ。
@あま様は、間違えなく、恋人様を愛してらっしゃるんですよ。』
天谷は階段の下にいた。
天谷はメールを見たまま、瞬きを繰り返す。
階段の踊り場の開け放たれた窓から、風が入って来る。
天谷の髪を風がサラリと撫でた。
窓から、蝉の鳴き声が聞こえる。
風に揺れる木々の囁きが聞こえる。
その全てが、今まで知っていたものとは違うように天谷には思えた。
(俺は、日下部を……)
愛いしてる。
天谷は、そんな言葉を初めて聞いたという顔をしていた。
日下部のことを愛している。
今まで、考えもしなかったこと。
(そう、なのかな……)
天谷の顔が、紅色に染まる。
天谷は速足で、売店へ向かって歩き出した。
売店で、天谷は落ち着かない様子で飲み物を選んだ。
頭にあるのは赤式からのメールの続きのことと、日下部のこと。
愛してる。
言葉にすると、恥ずかしい。
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