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第191話 恋人アプリやってみました30p

 誰かを愛する気持ち。  それがどういう感情なのか、天谷にはわからない。  赤式からのメールには天谷が日下部のことを思っている証拠が書かれていた。  天谷が今まで、それを日下部を愛しているからだと結び付けて考えたことの無い、愛の証拠。  日下部のことで悩んでいるのも、苦しんでいるのも、日下部を愛しているからだと赤式は言う。  そうなのだろうか、と天谷は自分に問いかける。 (俺が日下部のことを……よくわからない。でも、嫌いなわけじゃないし、日下部がいないと俺は駄目だし。愛してる……そう、なのかな……俺が日下部を……全然わからない。そもそも、好きになって付き合ったとかじゃ無いし。でも、日下部のこと、そう思うと、心がそわそわする)  天谷は売店の飲み物のコーナーの前で、先ほどと同じアイスコーヒーに手を伸ばしかけて、いったんその手を止める。  天谷の目は、ある一点に注がれていた。  レモネード。  天谷は手をレモネードの缶へ伸ばし、それを手に取る。  日下部とレモネードを作った時の記憶が鮮明に天谷に蘇る。  蜂蜜で濡れた指先を舐められて、恥ずかしいことを囁かれて…………。  あの時の意地悪な日下部の顔。  そこまで思い出して天谷の顔は恥ずかしさで火照る。 (レモネード……恥ずかしいけど、これにしよう。これ飲めば、少しは日下部のこと考えられるかも知れないから。兎に角、逃げずに考えなきゃ。自分が日下部のことどう思っているのか)  天谷はレモネードを握りしめてレジに向かう。  売店でレモネードを買った天谷は、赤式からのメールの続きをリフレッシュルームでゆっくり読もうと決め、速足でリフレッシュルームへと向かう。  リフレッシュルームに着き、席に着くと、レモネードをまず一口。  缶のレモネードは妙に甘ったるかった。 (日下部と作ったレモネードの方がおいしかったかも。あれ、また飲みたいな)  天谷はレモネードの缶をテーブルの上に置いて、スマートフォンで赤式からのメールの続きを読んだ。   『恋人様を愛しているのかどうかは、@あまご自身の大切な思いになりますので、きちんとご自分で確かめてみて下さい。  確かめる方法としては、そうですね、ときめきをキャッチするのです。  @あま様が恋人様のリアクションで心がときめくかが鍵となるかと思います。  恋人様のリアクションで胸がドキドキしたり、胸が痛くなったり、感情を揺さぶられるような、堪らない気持ちになるかどうか、で御座います。』  天谷は、はぁっ、とため息を吐き出す。 (ときめき、ねぇ……どうなんだろう。胸がドキドキ……そんな瞬間、あったような、無かったような。うっ、でも、指を舐められた時はドキドキしたな。あれがときめきなのだろうか?)  テーブルの上の、缶のレモネードを細い目で見ながら天谷は思った。

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