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第192話 恋人アプリやってみました31p
(あっ、日下部のベッドで一緒に寝た時もドキドキした。あれもときめきなわけ? あーもう、色々思い出すと、何もかも、恥ずかしさとセットの思い出なんですけど?)
天谷は頭を掻きむしる。
自分が日下部にときめいたことがあるか否か、これもまた、天谷にとって難しい問題であった。
(うっ、駄目だ。考えれば考えるほど恥ずかしくなる。ときめきはひとまず保留にして、メールの続きを読もう)
赤い顔の天谷はメールの続きを読む。
『それから、恋人様もきっと、@あま様のことを愛していらっしゃると思いますよ。
そこは安心して大丈夫だと思います。
@あま様を愛しているからこそ、一緒に旅行に、ということになったのではないでしょうか。
愛しい人と、一夏の思い出を。
素敵な心意気ではないですか。
実は、わたくしも、大学生の頃、初めてできた恋人と、夏休みに旅行へ行きまして。
思い返すと恥ずかしい記憶で御座いますが、申し訳御座いません、話が逸れてしまいました。
けれども、@あま様は恋人様のお気持ちがわからない、とおっしゃっていますね。
それがご不安でいらっしゃると。
今まで、恋人様から、何か思いを伝える言葉が@あま様に無かった、ということでしょうか?
そうでしたなら、さぞご不安でしたでしょう。
@あま様、今まで、恋人様から、それらしい言葉もありませんでしたか?
どんな些細なことでも構いません。
例えば、からかい半分に言われたようなことでも構いません。
それか、@あま様に対して、好意的なアプローチは何か無かったですか?
恋人様からのスキンシップなどはありませんか?
@あま様に恋人様が触れる瞬間がありはしなかったでしょうか?
お心当たりがお有りでしたなら差し支え無ければ教えて頂きたいです。
コンプライアンス上、こちら側からあまり攻めたことは聞けませんでして、ぼやかした聞き方になってしまい、申し訳御座いません。
どんな些細なことでも構いません。
@あま様と恋人様の間に絆はちゃんとあると思いますよ。
それに、お二人の関係はまだまだこれから盛り上がっていくでしょう。
悩み過ぎずに、恋を楽しまれて下さい。
まずは目の前のご旅行。
楽しいものに致しましょうね。
恋人アプリ・カスタマーセンター担当赤式』
天谷はメールから目が離せなかった。
(日下部が俺のことを……そんなことって有り得るのかな。安心して大丈夫って、本当に? だって、今まで日下部から一度も好きって言われたこと無い。付き合ったのだって、何となくそうなったようなものだし、日下部に取って、俺って友達の延長線上にいる存在的なポジションな感じだよな? でも、言われてみれば、付き合ってから友達以上のことも……あった?)
天谷は缶のレモネードを手に取って、それをしげしげと眺める。
レモネードを見れば、嫌でも思い出す、あの時のこと。
天谷はレモネードを恐る恐る口に含んだ。
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