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第193話 恋人アプリやってみました32p
口の中に、僅かなレモンの味が広がる。
自分の指を口に含んでいる時の、日下部の恍惚とした表情が天谷の頭に浮かび、天谷はレモネードを吹き出しそうになった。
そう言えば、と天谷は思う。
指なんか舐められて気持ち悪いことのはずなのに、あの時は不思議とそう言う感情は湧かなくて、ドキドキして、ゾクゾクとした感覚が天谷を支配した。
日下部は何であんなことをしたのだろうと、天谷は不思議に思ったものだ。
あの時の、ゾクゾクした感覚。
あれは何だったのだろう。
あれが、赤式の言う、ときめきなのだろうか、と天谷は考える。
天谷はレモネードをテーブルの上に置く。
(はぁっ、気持ちを伝えるアプローチって、指舐めるとか、完璧にからかってるやつだろ。あっ、でもあのばか、最中に俺のこと可愛いとかほざいてたな。赤式さん、からかい半分に言われたことでも良いって言ってた。しかし、これを赤式さんに報告とか、公開処刑もいいところだろ!)
日下部の気持ち。
それが天谷には、ずっと掴めない。
まるで、空に浮かぶ雲のようで、天谷の手に届かない。
(つうか、赤式さんも、大学の頃に恋人さんと、夏休みに旅行に行ったんだ。初めて出来た恋人……か。俺と同じだ。なんか親近感。赤式さんって、本当、どんな感じの人なのかな。綺麗系のお姉さんかな。うっ、だとしたら、女の人相手に男の情けない悩みごと聞かせてるんだよな、俺。最悪だ。よし、ここは、男らしく、訊かれたことに答えなきゃ! 恥ずかしがってるとか思われたら嫌だし! えっと、からかい半分に言われたことと、日下部に触られた瞬間のことを書いて伝えればいいんだ!)
気合を入れて、天谷は赤式への返事を書いた。
『赤式様へ
お待たせして申し訳有りません。
俺が相手を、その、愛しているかどうか、考えてみましたが、まだ実感が湧かないというか、わからないというか。
でも、そうだったらいいな、と思います。
相手に対して好意はある、と思います。
これから、赤式様のアドバイスを参考に、自分の感情をじっくりと観察していこうと思います。
赤式様は、相手が俺を、えっと、愛してくれている、と言ってくれましたが、それもやっぱりピンと来なくて。
今まで、相手から好意を伝える言葉とかを貰ったことが、やっぱり無くて。
あの、質問の答えになります。
頭を撫でられたり、髪を触られたりとかは、よくあります。
後、抱きしめられたこと、とか、一緒に寝た時に、ギュッとされたこととか。膝枕することになったりとか。後、それらしい言葉、なのですが、ふざけて可愛いって言われたことはあります。
それと、これは言われて嬉しかったので覚えているのですが、幸せって言ってました。俺といる時に。二回くらい、そんな風に言われたことがあって、嬉しくて、忘れないです。
これくらいでしょうか。
あの、赤式様は、大学の時に付き合った恋人さんと初めての旅行に行かれたんですよね? その時の旅行はどうでしたか? 赤式様のことですので楽しく過ごされたことと思いますが、何だか、自分のことと重ねてしまって気になりました。
赤式様と、恋人さんのお話、差し支え無ければお話頂けると幸いです。
@あま』
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