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第196話 恋人アプリやってみました35p

 天谷は訊かれて思い出す。  日下部と初めて一緒に寝たあの夜のこと。  からかって取ったいつもとは違う日下部の態度。  何が起こるか不安で、ドキドキしたこと。 (あっ、あんなの、冗談……日下部だって、からかっただけだって言ってたし。スキンシップとかじゃ、全然ないしっ! 意地悪されただけで、あんなの、あんなの……)  あの時のことを天谷は冗談で全部片づけてしまっていた。  事が終わった後、日下部に優しくされたこと、それも全部、冗談か、日下部の気まぐれに天谷はしてしまっていた。  けれど、もしも、そうで無いのなら、日下部からのアプローチなのだとしたのならば。  そう思うと、天谷の気持ちは落ち着かなくなった。 (日下部が、俺のこと、求めてるって、本当に? だって、俺なんかを、日下部が……)  卑屈な自分が現れて、天谷に言う。  お前は誰からも愛されない。    それはそうだ、と思って、天谷は顔を伏せる。  あの時、日下部は、側にいて、と天谷にいった。  それはあの時だけのことだろうか、と天谷は考える。 (日下部……)  初めて日下部の体温を感じて眠った日。  優しい日下部の声を聞いて落ち着いて、自分の首に埋まる日下部の顔が温かくて、それに何だか安心して。  あの瞬間、日下部が自分のことを、もしも思っていてくれたなら…………。  お前は誰からも愛されない。  卑屈な自分の言葉は心に突き刺さったままだけれど、でも。  そうだろうか。 (信じて……良いのかな。日下部が、もしも、一パーセントでも俺のことを愛してくれているのなら、その気持ちを信じても良いのかな)  ほんの少しの思いでも、天谷には構わなかった。  あの時、抱きしめて言ってくれた台詞の中に、どれか一つでも真実があるのならば、天谷はそれだけで救われる気がした。 (抱きしめることが一番の愛情表現って赤式さん、言ってるし、あの時、そうしてもらえただけでも、まずはありがたいことなのかもと思わなきゃなのかも。そう、だよな。嫌いな相手のことを抱きしめたりしないよな。少なくとも、日下部にとって俺は、抱きしめてもいいくらいには好意は持ってもらってるってこと……だよな?)  そう自分に言い聞かせることで、何とか落ち着きを取り戻した天谷。 (でも、あいつ、俺に欲情したとか言ってなかった? 流石にそれは有り得ないだろ。だって、俺、男だし。日下部がそう言う気持ちのなる要素ゼロだろ。ああっ、日下部の言葉の何を信じたら良いんだろう。やっぱりわかんない)  再び混乱し出した天谷。  まるで日下部の手のひらで踊るようだ。  不安な気持ちを残したまま、天谷はメールの続きを読む。

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