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第199話 恋人アプリやってみました38p
『わたくしと彼が付き合っていることは、周りには秘密にしていました。
何でそうしたかは、今にして思えば、まだ学生だったこともあり、男同士で、やっぱり周りの目が気になったのでしょうね。
彼が人目を引く人だったというのもありましたし。
わたくしが言うのもなんで御座いますが、彼はカッコ良くて甘え上手でモテるタイプの人だったんです。』
天谷は赤式への親近感を募らせる。
天谷と日下部の関係も周りには秘密だった。
小宮にすら秘密にしている関係だ。
そうする理由を天谷は深く考えたことは無かったが、周りの目が気になるから、というのも理由の一つとしてあるかも知れないと天谷は思った。
赤式がのろけ話を入れる所が天谷は微笑ましく感じる。
『二人がどんなカップルだったかと言うと、先輩、後輩の仲だった名残で彼の方がわたくしに合わせようとしてくれていましたね。わたくしはそれがもどかしくもあったのですが、彼の気持ちに甘えてしまっていました。わたくしも、初めて出来た恋人でしたので、彼にどう接したら良いのか大いに戸惑いましたし、不安になったこともしばしばです。
どうしたら彼が喜んでくれるのかな、とか考えたり、悩んだり。彼に嫌われないように、もう一生懸命で余裕が無かったですね。』
天谷はスマートフォンを置く。
赤式も、恋人の為に悩んだりしていたのだと思うと、悩んでいるのは自分だけでは無いのだと思えて天谷は気持ちが少し楽になった。
(赤式さんが悩むくらいだ。俺が日下部のことで悩んだり苦しんだりすることなんて当たり前だよな、うん)
天谷はスマートフォンを持ち、再びメールの続きを読む。
『わたくしが、その恋人と旅行に行ったのは、先にも申した通り、大学の夏休みでして。京都に、一泊二日で参りました。
新幹線に乗るあたりから、もうドキドキでした。
初めての二人きりの旅行でしたから、やっぱりわたくしも考えました。退屈にしたらどうしよう、とか色々。
わたくしの方が年上なのだから、しっかりしなきゃって、そればかりを考えておりましたね。
彼はというと、ひたすらに明るく振舞っておりました。
今にして思えば、その明るさは緊張からもあったのではないかと思うのですが。
京都駅に着いてすぐに、宿泊するホテルを目指して歩きました。
荷物をホテルの部屋に置いて、身軽にしてから観光しようということになったのです。
道すがら、彼のおしゃべりを聞きながら、頭の中はこれからのことでいっぱいで。
ホテルに着いて、部屋に入る時はドキリと致しました。
小さな部屋に二つのベッドが並んでいるのが、何と言うか、生々しいような感じがしまして。ここで一晩彼と過ごすのかと思ったら、何だか気恥ずかしさが湧いて来まして。
そんなわたくしに対して、彼の方は、ひたすらにはしゃいでおりました。
ベッドの上に乗って跳ねたりして。
まるで子供で。
そんな無邪気な彼を見て、可愛いな、なんて思ったもので御座います。
やはり、愛おしい者は可愛く感じるものなので御座います。』
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