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第226話 日下部のバイトの風景8p
休憩時間が終わりになり、日下部はサンドイッチの乗っていた皿とコーヒーカップを、カウンターの奥で片付けていた。
カウンターに入ると真ん中の壁際に、人二人が通れるくらいの通路がある。
その通路に入った所をカウンターの奥、とアンダーグラウンドでは呼んでいた。
カウンターの奥に入って直ぐが、決して広くは無い水回りとなっており、そこで調理や洗い物をするのだ。
皿を洗い終わった日下部は、カウンターの奥から出る。
丁度、客のカップは空になっていた。
「そろそろお暇します」
客がそう言うので、日下部は素早い動きで伝票を探す。
伝票が中々見つからずに日下部は焦る。
すると、織戸が、「このお客様の会計はいいから」と言う。
日下部と客が、「えっ?」と声を上げる。
織戸が客に向かって「今日はご馳走させて下さい」と丁寧に言った。
客は驚いた顔で、「そんな、だめです。この間も、そうやってご馳走して下さったじゃありませんか。だめです」と言う。
客は大変慌てていた。
織戸は、そんな客に笑顔で「良いんですよ。こうして店に来て頂けただけで嬉しいんですから。ご馳走させて下さい」と言う。
「そんな……」
困った顔の客。
「迷惑ですか?」
切なげな織戸の台詞に客は慌てて首を振る。
「なら、ご馳走させて下さい」
一変、笑顔でそう言う織戸。
客は、申し訳なさそうな顔をすると、「それじゃあ、今日はご馳走させて頂きます」と小さな声で言った。
ドアの前で何度も頭を下げて、客は店を出て行った。
客を見送った後、日下部は織戸に、「あのお客さん、よく来ますね。コーヒーの奢りとか、特別なお客さんなんすか?」と訊いてみる。
「ああ、赤式さん。うん、特別なお客さん。彼の会社がうちの店の近くらしくて、よく来てくれるんだ。今、彼に色々お世話になってるから、奢りはそのお礼も兼ねて」
「お世話って何の?」
好奇心に駆られて日下部は訊ねる。
「秘密だよ」
そう言って、織戸は人差し指を口元に当て、悪戯っぽく笑った。
ランチタイムの終わった店は、のんびりとしていて時間が長く感じる。
客のいない間に、織戸は何かを摘まんで食べたり、コーヒーを飲んだり新聞を読んだりしている。
織戸は自由そのものだ。
しかし、織部に反して日下部が手を休めることは無い。
客と織戸の相手をしながら、日下部は喫煙室の灰皿の交換などの仕事もして、仕事の合間に、織戸にコーヒーの入れ方を教わったりする。
こうして日下部はアンダーグラウンドの仕事をどんどん吸収していった。
ここで仕事をする日下部は実に楽しそうで、仕事が苦にならないと言った風。
「日下部君、今度、お客様にコーヒー出してみる?」
織部に言われて、日下部は目を輝かせて、「はい!」と答えた。
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