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第229話 日下部のバイトの風景11p

(大事にしてるつもりなんだけど……。読書中の天谷に連絡することは果たして、天谷を大事にすることになるのか否か)  日下部は、しばらくスマートフォンを見つめる。  そして、日下部は指を動かした。 『天谷、俺、今、バイト、一区切りついたとこなんだけど、今、話して大丈夫?』  書き上げたメールの文書を送信しかけたところで日下部の手は止まる。 (やっぱり、友達といるところ、そう何度も邪魔しちゃまずいだろ。我慢だ、我慢。いつも通り、夜、バイト終わってから連絡しよう)  行動してからの後悔。  日下部はメールを天谷には送らずに削除した。  日下部は頭を掻く。  オールバックにした髪がはらりと解けた。 (やばっ。髪型直すの忘れてた。次のバイト先でオールバックにしてたら笑われる。まぁ、バイト先で直せば良いや)  日下部がそんなことを考えていると、日下部にメールが届いた。  メールの差出人は天谷。  丁度メールを送ろうと思っていた相手からメールが届く。  その偶然に日下部は、ちょっぴりドキドキしながらメールを開いた。 『日下部、お疲れ様。こんな時間にメールしてごめん。仕事中だよな。あの、旅行のことで気になることがあって、今日、日下部、バイト終わったら少しでいいから話し良いかなと思って。ごめん。思い付いたら直ぐに言いたくなって。じゃあ、後で』  これを読んで、日下部は直ぐに天谷に返事をする。 『連絡ありがと。今バイト、一区切りついたとこ。旅行のことで気になることって何?  気になるんだけど』    天谷から返事が来る。 『今、時間、少し大丈夫?』  今、天谷は彼の友達、不二崎史郎と一緒にいる。  不二崎は天谷にとって、相当大切な友達であるらしい。  その不二崎との時間を横に置いて、自分との時間を優先して貰えている優越感に日下部はひっそりと浸る。 『いいよ』  日下部は返事を返した。 『旅行のこと、日下部に任せっきりじゃん。何か、一緒に旅行のこと一度話した方が良いのかなって思って。そういうの、必要? 俺、何処に行くかは聞いてても、どこに泊まるかとか全然聞いて無かったし』  天谷のメールを読んで、日下部は立ち止まる。  旅行の計画は日下部一人でもう、全て考えてしまっていた。  どこに泊まるかは、日下部は、あえて天谷には伝えていなかった。  日下部は旅行について、天谷と話し合いをすることを全く考えていなかったのだが、しかし、織戸の「付き合ってる子のこと、大事にしなよ」の台詞が日下部の頭に浮かんだ。  日下部はメールを打つ。 『やっぱり話しといたほうがいい?』  送信。    天谷から返事が来る。 『出来れば、その方が良いと思うんだけど。あの、要らないならいいから』  日下部は、また歩き出しながらメールの返事を書いて送る。 『時間がある時に話そうぜ』

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