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第235話 二人対談5p
声が聞きたいと思う。
顔が見たいと思う。
天谷に触れたいと思う。
どれも簡単なことなのに今は叶わない。
スマートフォンの音がする。
日下部は急いでスマートフォンを開く。
天谷からのメール。
日下部は目を大きく開いてメールを読む。
『お前、何センチメンタルなこと言ってるんだよ。それよりも、がっこの課題のことなんだけどさ、鏡教授の課題、もう手ぇ付けた?』
日下部の体から一気に力が抜ける。
(そうだよな。俺、何乙女みたいなこと言ってんだ。ははっ)
日下部は一人で盛り上がってしまったことが恥かしくなり、乾いた笑い声を漏らすと天谷にメールを送る。
『鏡の課題、まだ』
日下部は何事も無かったかのような返事を返した。
『だよな、俺も』
天谷からも何事も無かったかのような普通の返事が来る。
この後も、二人は学校の課題の話をメールでやり取りした。
話は盛り上がり、日下部は笑ったが、日下部の心には何か棘でも刺さったような違和感があって消えなかった。
『もう一時間半もメールしちまってるな。そろそろ切り上げるか』
そうメールしたのは日下部だった。
天谷から返事が来る。
『もうそんなになるか。うん。日下部、今日はありがと。お疲れ様。またな』
日下部はメールを打ち続けて疲れた指先で返事を打つ。
『待たな』
二人のメールのやり取りは終わりを告げた。
日下部は伸びをしてソファーから立ち上がった。
「あーっ、肩凝った。シャワーでも浴びて、カップ麺食って寝るか」
日下部が浴室へ向かおうと歩き出すと、スマートフォンが着信の音を鳴らした。
「えっ?」
奇妙な顔をして日下部がソファーに置かれたスマートフォンを手に取り見ると、電話が入っている。
相手は天谷だった。
日下部は電話に応答するとスマートフォンを耳に当てる。
『もしもし』
天谷の声。
小さな澄んだ、天谷の声。
「もしもし」
日下部は少し緊張していたのかも知れない。
声が少し上ずった。
『もしもし、日下部?』
天谷の声が耳をくすぐる。
「何で?」
日下部はそう言う。
『何でって、何?』
天谷が言う。
「何で電話して来たんだよ」
一瞬の間。
『だって、俺の声、聞きたいんだろ』
その台詞に日下部の顔は赤くなる。
笑いたくなるほど甘い台詞。
その台詞が嬉しく思う。
「うん、聞きたかった」
照れくさそうに日下部は言った。
二人の夜は、もうしばらく続く。
終
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