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第237話 初旅2p

 考えちゃダメだと思えば思うほど天谷はあれこれと考えてしまい、結局、三時間程度しか眠っていなかった。  早朝の電車は意外に空いていて天谷と日下部は座ることが出来た。  電車の揺れが心地よく、天谷の眠気を誘う。  眠たげな顔でもしていたのか、日下部が天谷に「眠たいのか?」と訊く。 「あ、大丈夫」と天谷は答える。 「次、乗り換えだから」 「うん」 「新幹線乗ったら少し寝ろよ」 「え、でも、そんなことしたら日下部が」 「そんな眠たそうな顔で言われてもな。現地着いてぼうっとされてるよりは良いからさ」 「うっ、わかった」  新幹線で天谷は眠った。  日下部はスマートフォンをいじったり、お菓子を摘まんだり車窓を眺めたりして過ごした。  乗車駅が近付いた頃、日下部が天谷を揺すり起こす。 「おい、天谷、次で降りるぞ」 「んっ、あっ、ああ、わかった」  まだ眠い天谷は目を擦りながら車窓に目を向ける。  見たことの無い風景。 (ああ、旅に出たんだな)  そう思うと天谷の気持ちは高まった。  新幹線を降りて、また電車を乗り継ぐ。  そうしてようやく旅先の目的地の駅に二人は辿り着いた。  時間は十二時近くだった。  丁度、お昼時になる頃だ。  駅の改札を抜けて見た景色に天谷は感嘆の声を漏らす。  山に囲まれた、時が止まったような古い日本家屋の街並み。  蝉の鳴き声と鳥の鳴く声が混ざり合って涼やかに響き渡っている。  見上げれば青い空。  風で木が揺れる音が、ざわざわと聞こえる。 (空気が異様に美味しい)  深呼吸しながら天谷は思う。 「いい所だろ」  日下部が言う。 「だな」  天谷は深く頷いた。 「取り敢えず、その辺で飯食おうぜ。この辺は水が綺麗でさ。蕎麦が美味いって話だから、蕎麦、どうよ?」と日下部。  天谷が「蕎麦、良いな」と言うと、二人は早速駅前に並ぶ何軒かの蕎麦屋を見て、どの店にするか吟味する。  ここは少し値段が高いだとか、ここは安すぎるだとか言い合っているうちに、結局、一番最初に見た店に入ることにした二人。  年季の入った白い暖簾をくぐると、カウンター席が六つと座席五つほどのこじんまりとした店の風景が見えた。  客は誰もおらず、天谷と日下部は思わず顔を見合せる。 「いらっしゃい」と年老いた店主の声が響く。  暖簾を潜ったからには引き返す訳には行くまいと言う暗黙の了解で、二人は隅の二人掛けの席に向かい合って座った。  赤い木の壁に立て掛けられたメニューから、二人は悩んだあげくに、ざる蕎麦を頼むことに決める。  お茶を持って来た、これまた年老いた女将さんに日下部が注文を頼む。  二人はざる蕎麦が来るまでの間、雑談を交わした。

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