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第238話 初旅3p
会わなかった間どうしていたか、が話の主な内容だった。
天谷は図書館通いと大学の課題をこなす毎日で、あんまり日下部に喜んでもらえるような話題は無いなと思いながら日下部に話をした。
日下部は天谷の話に不二崎が出て来ると顔を顰めて見せた。
その理由が天谷には全くわからなかった。
日下部はアルバイトと、やはり大学の課題をこなす日々。
日下部のアルバイト先の話を天谷は面白く聞いた。
(バイト、楽しそう。俺、バイトなんてしたこと無い。日下部とか小宮みたいにバイトした方が人生経験が豊かになって良いかも知れないな)
日下部の話を聞きながらそんな事を思ってみる天谷。
しばらくして、ざる蕎麦が女将の手によって二人のテーブルに載せられた。
「おお、美味しそう!」
日下部が声を上げる。
「だな」
天谷が頷く。
「食べよう」
日下部が箸置きから天谷の分も割り箸を取って天谷に渡す。
天谷が、「ありがとう」と言って割り箸を受け取り、二人揃って割り箸を割った。
「頂きます」
「頂きます」
揃って声を上げ、蕎麦を啜る。
「どう?」
上目遣いに日下部が天谷に訊く。
「ん、美味しい」
そう天谷が答えると、「良かった」と言って日下部は盛大に蕎麦を啜った。
二人が蕎麦を啜っているうちに店には一人、また一人と客がやって来る。
やがて、店は満席となった。
二人が蕎麦を平らげると、女将がやって来て蕎麦湯があると言う。
二人は頂く事にする。
「俺、蕎麦湯って結構好き」
天谷がそう言うと日下部が「俺は好き、嫌いじゃ無くって、あるって言われたら何となく飲んじゃう」と言う。
「わかる気がする。何か、そういうのあるよな。あるって言われると何となく、じゃあ、みたいな」と天谷。
「あるある。その何となくがちょっと嬉しかったり?」と日下部。
「そうそう」と天谷。
「お待たせいたしました。蕎麦湯です」
女将が現れ、蕎麦湯を置いてゆく。
二人は蕎麦湯の入った梅模様の湯桶の側に置かれた小さな湯飲みで蕎麦湯を飲んだ。
ちょっぴりとろみがあって、ほんわかした気持ちになる蕎麦湯。
天谷は少しずつ飲んでゆく。
先に呑み終えた日下部が天谷が飲み終えるのを待っている。
「ごめん。直ぐに飲んじゃうからさ」
天谷が言うと、日下部が「良いって。急ぐ旅でも無いからな」と言う。
「うん」
天谷はそれでも少し急いで蕎麦湯を飲んだ。
天谷が蕎麦湯を飲み終えて、その後、女将が冷たい麦茶をサービスしてくれて、それでもうお腹パンパンになった二人は店を後にした。
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