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第244話 初旅9p

「そうなの?」 「まぁ、見てろよ」  日下部が早速自分で浴衣を着て見せる。  日下部はあっという間に着てしまった。  天谷は、「おおっ!」と拍手する。  浴衣は日下部に良く似合っていた。  見違えた、と言うか、中々かっこいいな、何て天谷は思ってしまう。 「お前も自分でやってみる?」  日下部が言う。 「いいよ。何か面倒くさげ」と天谷。 「お前のそういうとこ、良く無いぞ」 「ほっとけ!」  日下部と二人きりになって天谷はやっと気が抜けた。 「ほら、浴衣、着せてやるから立てよ」  言われて天谷は面倒くさげにも立ち上がる。  立ったまま、棒のようになっている天谷に日下部が「服くらい自分で脱げよ」と言う。 「わ、わかってるから」  天谷はシャツのボタンに手をかける。 「日下部」 「ん」 「お前、何見てんだよ!」 「は?」 「見られてると脱ぎずらい」 「はぁ? お前、男同士で今さら何恥ずかしがってるんだよ!」 「べ、別に恥ずかしがってなんか無いけど、やりずらい」 「あーもう、うるせーな! 後ろ向いてるから服脱いで浴衣羽織っとけ!」  日下部は勢い良くクルリと後ろを向いた。 「終わったら言えよ」 「……わかった」  天谷は日下部の背中をチラチラと見ながらシャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、浴衣を羽織った。 「日下部、もう良いよ」  天谷がそう言うと日下部が天谷の方を振り返る。  浴衣の前をしっかり手で合わせている天谷に日下部は苦笑いだった。 「こうやって、こう。な、簡単だろ」  日下部は天谷にサッと浴衣を着せた。 「わからん」 「お前、覚える気、無いだろ」 「全く。浴衣なんて、子供の時以来かも。うわぁ、結構気持ちいい。何か、日本人って感じ」 「感じしなくても日本人だっての! まぁ、よく似合ってるよ」 「そう?」 「ああ」 「ありがと。日下部も、似合ってる」  照れくさそうに天谷は言う。 「本当に似合ってる?」  日下部が天谷の顔を覗き込む。 「に、似合ってるから。顔、近い!」  天谷が日下部の体を押しやろうとする。  しかし、綺麗にかわされてしまい、逆に日下部の腕の中に引き寄せられてしまう。  そのまま日下部は天谷をギュっと抱きしめる。 「うっ、日下部?」  急な出来事に天谷は戸惑う。 (いきなりこんな。ど、どうしよう)  天谷の心臓がドキドキと鳴り出す。 「ずっと会えなくて……やっと会えて嬉しい」  そう言って日下部は天谷の肩に顔を埋める。 「んっ」  天谷はくすぐったくて声を漏らす。 「天谷っ……」  日下部の顔が天谷の首をくすぐる。 「く、日下部っ」  日下部の名前を呼ぶ天谷の声がかすれる。  どうしたら良いのかわからずに、天谷はそのまま日下部のされるがままに任せた。

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