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「どうした、何も言わないつもりか?」
西園寺はそう言うと、靴音を響かせながら近づいてきた。
ドレスコードに合わせたいつもと違うスーツ姿の西園寺。
ビジネススーツも似合っているが、カラーがアクセントになったドレススーツもとても似合っている。
しかし華やかな装いとは逆に、彼は素っ気ない態度でドサリとソファに腰を下ろすと長い脚を鷹揚に組んだ。
テーブルの上に置かれたメニュー表を手に取り、数ページめくる。
するとますます怪訝な表情になった。
「…ふん…趣味の悪いメニュー名だ」
悪態をつく西園寺を、マツバはハラハラとしながら見つめることしかできない。
メニュー表を閉じた西園寺は眉間の皺をますます深めながらマツバを睨んできた。
怒りと呆れの混ざった表情。
付き合ってから初めて見る表情だ。
「ここ最近、お前がコソコソと何かを隠しているのは気づいていた。何をやっているのかと探ってみれば…まさかこんな趣味があったなんてな」
冷たい声色で言われてマツバは慌てて首を横に振った。
「趣味なんかじゃ…」
「じゃあなんだ?嫌がらせか?」
「ち、違います!!」
「俺に満足していない?」
「違います!!」
次から次に畳み掛けてくる西園寺にマツバは涙目で訴えた。
「じゃあ答えられるだろ。何が理由でこんな場所で働いているんだ?」
西園寺はマツバを手招きすると隣に座らせた。
俯き唇を噛みながらスカートを握るマツバの手に、西園寺の手が重なる。
「頼むマツバ、理由があるなら聞かせてくれ。でないと俺はお前に酷いことをしてしまいそうだ」
顔を上げると西園寺が縋るような眼差しでマツバを見つめていた。
胸が痛む。
まるで針の上を裸足で歩いているような気持ちだった。
けれど、やっぱり答えることはできない。
だってあともう少しなのだ。
西園寺の誕生日は目前に迫っている。
ここで何もかも話してしまったら、今まで耐えてきた事は水の泡。
プレゼントだって買えない。
優しい西園寺のことだからそんなものは要らないと言うかもしれないが、それじゃダメなのだ。
それではいつまでたっても彼との差は縮まらない。
頑なに口を閉ざすマツバに業を煮やしたのか、西園寺が深く溜息を吐く。
次の瞬間、彼は握っていたマツバの手ごと引き寄せた。
掴まれた腕が痛い。
指が食い込む程強く掴まれているからだ。
「そうか、それなら望み通りにしてやる」
ゾッとする程低い声で宣言されて背筋が震える。
「ここは客のランクで受けれるサービス内容が変わるらしいな?俺は初めてだから選択肢が少ないらしいが…まぁいい」
西園寺はネクタイを緩めると酷薄な笑みを浮かべてマツバを見下ろした。
「お前が耐えればいいだけだからな」
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