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第10話
次の日九十九は、学校に行くと朝一で一年三組の教室に向かった。一年廊下を歩く九十九の姿に一年生たちは驚きを隠せず、立ち止まって九十九を眺めている。
「雪柊…白石雪柊いるか?」
一年三組の入り口にいた女子生徒二人組に九十九は尋ねる。
「え?あ…はい」
女子生徒は一人はポカンとして返事をし、もう一人が
「白石!先輩が呼んでるよ!」
そう言って後ろを向き雪柊を呼んだ。
女子生徒の目線を追えば、雪柊はベランダに出て外を眺めていた。
「ねえ!白石呼んで!」
窓際にいる男子生徒が窓を開け、雪柊に声をかけている。
九十九は女子生徒に礼を述べると女子生徒は顔を赤らめた。
雪柊がこちらを見る。雪柊の顔に薄っすらと笑みが零れた。
それはきっと、自分にしかわからない程度の笑みだろう。だが、すぐ顔を曇らせて、こちらに歩いてくる。
目の前まで来ると、俯いたまま九十九の言葉を待っているようだ。黙っていると、居たたまれなくなったのか、あの…と、口を開いた。
「余計な事して…すいませんでした…」
ペコリと頭を下げる。
「怪我……大丈夫ですか?」
九十九の頬にはガーゼ、所々絆創膏が痛々しく貼ってあった。
「ああ、うちのアニキたちは、加減わかってるからよ」
「村上先輩かっこいいー」
「怖いけど、素敵だよね……」
コソコソと周りの声と視線が気になり、
「場所変えるぞ」
そう言って、一番近い視聴覚室に向かった。
その間、雪柊は怒られると思っているのか、トボトボと下を向いて歩いている。
中に入り誰もいない事を確認すると、九十九は振り向き雪柊を抱きしめた。
「雪柊……ありがとな」
雪柊はびっくりしたのか固まったまま、しばらく動きが止まっていた。だが、しばらくすると九十九の腕に手をかけた。
「ルシファー、やめなくて済んだんですか……?」
「ああ」
良かった……そう、ポツリと呟いたのが聞こえた。
「ありがとう……」
また礼を述べると、
「元はと言えば、オレが悪いんです……すんませんでした、オレの為に……」
背中をポンポンと叩かれ、あの時もこうして背中を撫でてくれたな、と二年前の出来事を思い出した。
九十九は雪柊から体を離し、雪柊の顔を見た。赤らめた目元で自分を見上げている。
無性にキスをしたい衝動に駆られ、九十九は無意識に両手で雪柊の頬を包んだ。
唇を寄せると雪柊も躊躇う事無く目を閉じた。
キーンコーンカーンコーン
不意にチャイムが鳴り、ハッとして九十九は雪柊から体を離した。
「あー……とっ、悪い……」
九十九は照れたように頭を掻き、行くわ……と慌てたように扉を開け教室へと戻って行った。
雪柊は九十九がいなくなると、腰が砕けたように思わずその場にしゃがみ込んでしまったのだった。
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