会いたい。顔が見たい。話しがしたい。頭を撫でてほしい。 雪柊の中で九十九に対して、色々な欲求が溢れていた。 九十九に折られた肋骨はまだ痛んだ。この肋骨が治らない限り、リベンジは叶わない。 それまで九十九に会う口実がないのだ。三年と一年の教室は偶然でもない限り会うこともない。 昼休み、必ずタバコを吸いに九十九と佐島は屋上にいることを知っていた。 会いたいなら、会いに行くしかない。 雪柊は勇気を振り絞り、屋上のドアノブを回した。 開けた途端、風が雪柊の顔にぶつかる。 目を開けると予想通りそこに九十九はいた。 受ける風に目を細め、目を閉じた瞬間の顔が酷く色っぽく見えて、雪柊はしばらく九十九に見惚れた。 佐島の姿はなく、九十九だけが手すりに背を預け咥えタバコをしている。 風で赤髪がなびき、普段見る事のできない額が露わになっている。 「よう……雪柊。タイマンならやらねーぞ」 「肋骨折れてて、できねーし……」 そう言って口を尖らせた。 「そりゃあ、悪かったな」 全く悪びれる様子もなく九十九は言う。 その時屋上の入口のドアが開いた。 雪柊は振り向くと、先日雪柊とのタイマンに負けた幸田が数名の男を引き連れていた。 「なんか用か、幸田」 「今日限りで、あんたをここの頭から引きづり下ろす事にしたからよ」 ニヤリと幸田は不気味な笑みを浮かべた。 次の瞬間、近くにいた雪柊が殴られ九十九の足元まで吹き飛ばされた。 すぐ立ち上がり、 「何すんだ！てめー！」 幸田に殴りかかろうとした。 「白石、おめー肋骨折れてんだって？」 その言葉に雪柊の顔が青くなる。 「二人共死ねや！」 幸田の後ろからゾロゾロと十五人程の男が現れ、二人は囲まれていた。良く見れば、大森中以外の制服が目に入る。 危険に感じた九十九は、雪柊の腕を掴むと自分の後ろに引っ張った。 「幸田……覚悟できてんだろうな」 九十九の顔は怒りで血の気が引き、雪柊ですら背中がゾクリとした。 「この人数で勝てると思ってんのかよ！」 そう言って幸田達が突っ込んでくる。 「こ、幸田！この二人化け物だぜ！」 周りを見れば、すでに立っているのは三人だった。 雪柊はやりあっていた男の拳が腹部に入り、折れた肋骨が悲鳴をあげ雪柊は蹲った。 「雪柊！」 幸田はそれを見るとすかさず雪柊の胸ぐらを掴み、ポケットからナイフを取り出た。 それを、雪柊の顔に押し当てる。 「動くな！こいつを傷をつけさせたくなければ、ここで土下座しろ！そんで、頭降りろや！」 九十九が俯き、体がゆらりと揺れた。 体から怒りのオーラが漏れ全員が息を飲む。 だが、予想に反して九十九は片膝をコンクリートに付けた。 「やめろよ！土下座なんかすんな！」 雪柊が大声を張り上げると、幸田が雪柊の腹に蹴りを入れた。 「ぐあっ…！」 激痛が走り気が遠くなりそうになるのを必死で繋ぎ止めた。 「つ、九十九さん……」 雪柊は顔に当てられているナイフを幸田の手ごと掴んだ。 「な、何する……」 「絶対謝んな！」 （あの人に土下座なんてさせるくらいなら……！） 次の瞬間、雪柊は掴んだナイフの刃を自ら顔に押し付け、幸田の手を掴んだままナイフを上から下に動かした。 ジリジリとした熱を持つ痛みと共に血が顔を伝っているのを感じた。 「う、うわー！何してんだ、こいつ！」 「頭おかしいぜ……！」 幸田は雪柊から慌てて離れると、怯えたようにナイフを投げ捨てた。 幸田達はその雪柊の異様な行動に一目散に逃げて行ってしまった。 「雪柊！」 九十九は雪柊に駆け寄ると、雪柊はぐったりとし出血で顔が青くなっていた。 九十九は頬を必死に抑えたがそれでも血は止まる事はなく、九十九の手もみるみる赤く染まっていった。 「雪柊ーーー！」 雪柊は九十九の腕の中で意識を手放した。 その後、幸田は九十九の手により再起不能になり転校して行ったと後から雪柊は聞いた。