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第13話
ルシファーの溜まり場のバー・ブラックキャットに雪柊はいつものように、他のルシファーのメンバーと談笑していた。
「知ってるか?」
目の前には自分と同時期に加入した、久我学と天音光太郎。
その、天音が口を開く。
「昨日久しぶりに、頭と英信の伊武がタイマンやったらしいぞ」
「まだあの二人やってんの⁈」
久我が目を丸くした。
「で?どっち勝ったんだ?」
そう聞いて、雪柊がタバコに火を付ける。
「途中、バレて九十九さんたちに止められたらしい」
「なんか、ガキみてーだな。皆んなにバレないようにタイマンして、で、結局九十九さんにバレて説教されるんだよな、あの人」
久我が苦笑いを浮かべる。
「いいライバル関係なんだろ。お互い、いい刺激受けてていい関係じゃねーか」
雪柊は、ふっ……と笑いを零す。
「顔合わせばタイマンだもんな」
その時ライダースのポケットに入っていた雪柊の携帯が震えた。
九十九からのメールだった。
『悪いが、学校まで迎え来てくれ』
携帯を仕舞い雪柊は立ち上がると、
「九十九さん?」
天音が尋ねる。
「ああ……学校、迎え行ってくる」
そう言って、店を出る。
つい先日やっと購入したアメリカンの愛車に跨る。エンジンをかけ、ブォン!と一つ大きく吹かし、発進させた。
九十九が通う二ノ宮北高校。通信ニ北。県内三本の指に入る進学高である。
九十九が頭がいいのは知っていたが、ここまでできる人だとは思わず、雪柊は九十九への尊敬が強まったのを覚えている。
二北の校門に着くと、まだ授業は終わっていないらしく、辺りはシンとしていた。
雪柊はバイクに跨り一服しながら九十九を待つ事にする。
進学校とあり、不良の類いは少ない。そして、共学だった。九十九はモテるのだと、ルシファーのメンバーが僻んでいるのを耳にした事がある。
九十九がモテるのは当然だろうと思った。贔屓目抜きで、九十九はカッコいい。顔も整っている上に、頭が良く冷静沈着でキレ者、他のチームの間でも一目置かれているのを雪柊は知っていた。
チャイムが鳴り、生徒たちがゾロゾロと校門から出てくる。その間、必ず雪柊に目線を向けられる。何度来ても居心地の悪さには慣れなかった。
昇降口から見慣れた赤髪が見え、こちらに向かって歩いてくると、黒髪の長い女子生徒が九十九に駆け寄る。お互い笑みを浮かべ、談笑しながら歩き、女子生徒が九十九の腕に手をかけた。
途端、雪柊の腹の奥がモヤモヤと燻り始め、見るに耐えず目を伏せた。
「待たせたな、雪柊」
顔を上げると、九十九と先程の女子生徒が並んで立っていた。
無意識にギロリと女子生徒を睨む。
女子生徒は少し顔を引きつらせ、
「じゃ、じゃあ、また明日ね」
去り際に九十九の肩に触れ、逃げる様に去って行った。
「ああ」
雪柊は九十九にヘルメットを渡す。
「好み……変わったんですか?」
嫌味たっぷりに聞く。
「あ?」
「この前はもっとケバい女だった」
今日の女は黒髪が綺麗な肌の白い女。先日は化粧の濃い年上の女だった。
「あれは、そんなんじゃねーよ。オレの事好きみたいだけどな」
そう自信たっぷりに言う。
「根拠もなく良く言えますね、そんな事……」
九十九の言葉に呆れた声を出す。
「あれは……ダメだ。黒髪は綺麗だけど肌が荒れてる」
まただ……。
雪柊はグツグツとした苛立ちが腹の奥から湧き上がる。
もう、何度も味わい覚えてしまった感覚。
自分は今、嫉妬している。
九十九の唯一の欠点と言えば、女癖が悪いとこだろう。高校に入る辺りから急に女を取っ替え引っ換えし始めた。
見た目はバラバラだったが、九十九の拘りは綺麗な白い肌と黒髪らしく、いつも決まって感想を言うのだ。
特定の彼女というのは作らない主義らしく、本人曰く、後腐れのない関係、を心掛けているらしい。
仕方がない事とは言え、新しい女を見る度に酷く傷ついては落ち込む自分がいた。
「それは残念でしたね……」
エンジンをかけ、九十九が後ろに乗る。
ヘルメットを被ろうとすると、九十九の手が雪柊の頭の上に乗る。
「妬くなよ」
その言葉に雪柊は思わず勢いよく振り向く。
「妬いてなんかいねー!」
顔が真っ赤だった。
「そんな事言ってると、途中、あんたの事バイクから振り落としますよ」
「それは勘弁」
そこでやっとバイクを発進させた。
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