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第15話
その週末、玄龍から指名を受けた四人はバイクで東京のある郊外に到着した。
喫茶『さくら』
そこがシルバーローズの溜まり場だという。
隣には空き地があり、そこに四人はバイクを止めた。
その空き地に三人の男が待っていた。
「九十九!」
坊主頭に顎髭を蓄えたガタイのいい男がタバコを燻らせ近付いてくる。
「楠本、久しぶりだな」
二人は手を合わせると、
「悪かったな、遠いとこ。キヨ、タカ……」
そう言って楠本大地はこちらに目を向ける。雪柊は両手を膝に置き頭を下げると、
「白石雪柊です」
「うちの期待のルーキーだ」
九十九が少し揶揄うように言う。
雪柊は顔を上げると、楠本の後ろからひたすら自分に目線を向けている茶髪の男を見る。明らかに友好的な目をしていない。
「宜しくな、白石。うちも紹介しておく。うちのルーキー、花村勇気だ」
花村勇気はそれが合図のように雪柊の目の前に立った。
茶髪の頭を無造作に立たせたその小柄な男は、童顔の顔に似つかわしくない冷めた目で雪柊を見ている。
「へえー、こんな白っちろい女みてーな奴がルシファー期待のルーキーですか?」
その言葉に雪柊の目の色が変わる。
「なんだと……?」
雪柊も負けじと花村に顔を近付ける。
「勇気!やめろ……!」
楠本は花村に言うと九十九も、
「雪柊……やめとけ」
九十九の腕が雪柊を止め、仕方なく後ろに下がった。
「本当に頭が言うほどのチームなんすか?ルシファーって」
花村のその言葉に、一瞬にして頭に血が昇り、雪柊は花村に殴りかかっていた。
花村の顔面に拳を入れると、ガスっという鈍い音と共に花村は地面に背中を付けた。
「やりやがったな!てめー!」
花村も負けじと雪柊に殴りかかる。
「やっぱ始まったか…」
楠本は天を仰ぎ、ため息をついた。
九十九はしばし、二人の取っ組み合いをタバコを燻らせ眺めている。
「止めなくていいのかよ、九十九」
ルシファー幹部の一人である、小川清信が焦ったように言う。
「いいんだ」
「え?どういう事?」
もう一人の幹部である、高杉浩司が理解できず九十九に問いかける。
「まぁ、こんな早くやり合うとは思わなかったけど……遅かれ早かれ二人をぶつける手筈になってたんだよ」
雪柊と花村はお互い一本も引かず、五分五分の殴り合いをしている。
ドカッガスッと鈍い音が空き地に響いている。
花村の体が一瞬ユラリと体制を崩した。それを雪柊は見逃さず、回し蹴りを放った。花村の体が宙に舞い、吹き飛んだ。どさりと花村は地面に背中を付けると、動かなくなった。どうやら気を失ったようだった。
雪柊は大きく肩で息を吐き、倒れた花村をじっと見た。
「勝負あったな……おい、佐々木!勇気連れて行け」
後ろにいたシルバーローズのメンバーに声をかけ、花村の元に駆け寄ると肩に担ぎ空き地を出て行った。
九十九が雪柊の元に歩み寄り、頭をポンッと叩く。
「勝手やって……すいません……」
九十九と楠本に頭を下げる。
「おまえ……強いな。驚いた」
楠本は笑みを浮かべ、雪柊に言った。
「誰だろうとうちのチームの悪口は……許さないです」
雪柊はギラリとした目を楠本に向けた。
「あいつは……勇気はタイマンで負けた事が一度もなくてよ……最近、人を馬鹿にしたように人を見下すようになっちまってよ。うちの奴らと勇気の間に溝ができ始めちまった。だから、玄龍に頼んでおまえと勇気をタイマンさせる事になってたんだ」
その言葉に雪柊は唖然とした。
「玄龍に相談したら、同い年の奴に一度負けとけば、目も覚めるだろうって玄龍が言ってて……勇気は本当に強い。それはオレも認めてる。いくらルシファーの期待のルーキーでも勝てるとは思ってなかった。いい弟分入ったな、九十九」
楠本はそう言って九十九の肩を叩き、
ああ……と満足そうに九十九は笑みを零した。
「これで、勇気も何か変わってくれるといいんだけどな…」
楠本にはわずかな期待なのか、力なく呟いた。
「黙ってて悪かったな、今回はそれもあっておまえを連れてきた」
九十九は雪柊の肩に手を置いた。
「オレが……負けてたら、どうしてたんですか?負けるって思わなかったんですか?」
「不思議な事に……なかったな」
その言葉に雪柊は驚いたが、ふっ、と笑みが零れた。
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