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第20話

「兄ィ、九十九兄ィ……」 肩を揺すると、寝返りをうった。 「そろそろ起きて下さい」 もう一度肩を揺すり、名前を呼ぶと薄っすらと九十九の目が開いた。 「雪柊……か」 髪型が違うため、一瞬自分だと分からなかったようだ。 「頭いてー」 どうやら九十九は二日酔いのようだ。 まだ、布団に潜りモゾモゾとしていたが、雪柊はバッと布団剥いだ。 「シャワー浴びてスッキリして下さい」 「ああ……なんかよー」 気怠く体を起こし、しばし、ぼうっとする。 「変な夢見た……」 天井を見上げながら九十九は呟いた。 「夢?」 嫌な予感がした。 「どんな……夢ですか?」 九十九は雪柊を見ると、戸惑ったような表情を浮かべ、 「言えねー」 そう言ってベットから起き上がり、シャワーを浴びる為、浴室に足を向けた。 「兄ィ、もしかして……昨日の記憶ないんですか?」 九十九は目線を上に向け、 「ここまでおまえが運んでくれたのか?」 「はい」 「後半からの記憶が……ねーんだよ。いつ店出てここまで帰ってきたのか覚えてねー。久々にやっちまったな」 参った、そう言って浴室に入って行った。 雪柊は目の前が真っ暗になった。思った以上に自分は酷くショックを受けている。涙が出そうになるのを歯を食いしばり必死に堪える。 九十九は昨晩の事は夢だと思っているようだった。男相手にあんな事をされたなどと思い出し、それが夢ではなく、事実だと知ったら九十九は自分をどう思うか。気持ち悪いと思われてしまうのか。 ならば、夢のままにした方がお互いの為にはいいのかもしれない。 なかった事にしなくてはならない、そう思うと、涙が込み上げてきた。 扉をノックされた音が聞こえ、なんとか涙を食いしばり、立ち上がると扉を開ける。 小川と高杉だった。 「九十九は?」 「今、シャワー浴びてます」 「そっか、じゃ、用意できたら部屋に来てくれ」 コクリと頷くと扉を閉めた。 気怠い思いで自分と九十九の荷物を纏め、九十九が出てくれば後は部屋を出るだけにする。 シャワーを終えた九十九がタオルを頭から被り、ボクサーパンツ姿のまま浴室が出てくると、一瞬だけ目を向け、 「キヨ兄とタカ兄はいつでも出れるみたいです」 視線を逸らすと荷物を詰めながら言った。 「そうか」 そう言ったまま、九十九はその場に立ち尽くしている。 「?」 不思議に思い後ろに立っている九十九を見る。 「早く……着替えて下さい」 「あ、ああ……」 九十九は雪柊がベットに用意しておいた着替えに手をつけると、いそいそと着替えを始めた。 なんとか十時のチェックアウトギリギリにホテルに出る。 最後の挨拶をする為シルバーローズの溜まり場の喫茶店に行き、楠本たちに挨拶をする。 「雪柊」 花村が雪柊に声をかけてくる。 「今度そっちに遊び行くよ」 「ああ」 そう言って二人は拳を合わせた。 四人は帰路に着くと、ブラックキャットに寄り玄龍に報告をする。 「ご苦労だったな。今日は帰ってゆっくり休んでくれ」 そう言われ、解散した。 「雪柊」 帰り際、九十九に声を掛けられる。 「飯でも食って行くか?」 雪柊はしばし考え、 「疲れたんで今日は、帰ります」 いつもなら九十九の誘いなど断る事はなかったが、さすがに今朝のショックからなかなか立ち直る事が出来ず、九十九といる事が辛く感じた。 「そうか……」 「失礼します……」 頭を下げ足早にバイクに向かいエンジンをかけ、逃げる様にその場を後にした。 九十九の視線が痛かった。 きっと、勘が鋭い九十九の事だ。何か不審に思っているかもしれない。 自宅に帰り部屋に入った途端、雪柊は静かに泣いたのだった。

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