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第21話
それから、雪柊は九十九を避ける様になってしまった。
意識して避けていたわけではなかったが、今は九十九といるのが辛かった。あの時の事を忘れようとする程、九十九を意識してしまい、結果避ける様な形になってしまっていた。
九十九は間違いなく違和感を感じているはずだ。
傍にいると、どうしてもあの夜の事が浮かぶ。
手を見ればこの手で触れられた、唇を見ればこの唇にキスをされたのだと、その事ばかり頭を埋め尽くす。
そして、自分がこれほどまでに九十九を好きなんだと気付いてしまった。
男の自分が九十九を好きなどと知ったら、九十九はきっと自分から離れてしまうだろう。
今までのような関係に戻る事は出来ない。
今は、何とか自分の気持ちを閉じ込めようとしていた。
今まで通り接しようと思うが、ただ、今は歩み寄る事が出来なかった。
いつもの様に、雪柊はブラックキャットで一人カウンターでタバコを燻らせいた。
ボックス席には数名のメンバーが談笑している。
その時、店の扉が開きボックス席にいたメンバーたち一斉に立ち上がった。
「九十九さん、チャース!」
その名前にドキリとした。
「雪柊……なんで、おめーここにいんだよ」
怒気の含んだ声に振り向くと、九十九が自分を冷たい目で睨んでいる。
「なんでって……」
その目に居たたまれなくなり、目線を落とす。
「てめーに迎え来いって言ったよな!なんで、天音が来て、てめーは暇そうにここにいんだよ!」
そう言って九十九は、ガンッと近くのソファを蹴り飛ばした。
「……」
近くにいた久我たちが、九十九のその行動にギョッとしている。
普段、冷静沈着な九十九がキレる事は滅多になく、驚くのも無理はない。
黙っていると、ツラ貸せ、九十九がそう言って店の外に出ると、仕方なく重い腰を上げ九十九に着いて店を出ようとした。
「ど、どうした⁉︎雪柊、九十九さんとなんかあったのか?」
久我が心配そうに聞いてくる。
「いや……大丈夫だ」
力なく言うと扉を開けた。
「家まで乗せてけ……」
雪柊がバイクに跨ると、九十九が後ろに乗った。
その日は真冬並みの寒さで、バイクで風を切って走るには、ライダースだけでは寒く感じた。だが、この寒さと震えは、後ろから感じる九十九の怒りのせいかもしれない。
九十九の自宅に着き、バイクから降りた九十九を見ると、顎が動き無言で家に入るよう促された。
玄関に入ると、
「あ!雪柊のアニキ!」
顔を絆創膏だらけにした少年が雪柊を見て、嬉しそうな笑顔向けた。
村上一……九十九の四つ下の弟だ。
九十九に薄っすらと似ているが、一の無邪気な人懐こい顔は九十九に無いものだ。だが、普段から据わった様な目は良く似ていると雪柊はいつも思う。
今は中学二年で、九十九、雪柊に続き大森中で現在、番を張っている。
おそらく後々ルシファーに入る事になるだろう。
「なんか久しぶりですね」
村上家には何度か来た事があり、一が小学生だったころから随分と懐かれ、こんな自分に憧れを抱いていると九十九に聞いた事があった。
「……出掛けるのか?」
「結弦と約束してるんです」
いつも一緒にいる幼馴染の名前を出す。
「あ!バイクの事で聞きたい事があるんで、帰らないで下さいね!」
そう言って一は家を出て行った。
九十九について二階に上がる。
階段を登る足が酷く重い気がした。
部屋に通され扉が閉まる。
前にいた九十九が振り向いた途端、九十九の手が雪柊の胸ぐらを掴んだ。
その次の瞬間、九十九に顔を殴られ、その勢いでベットに倒れ込んでしまった。
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