21 / 40

第21話

それから、雪柊は九十九を避ける様になってしまった。 意識して避けていたわけではなかったが、今は九十九といるのが辛かった。あの時の事を忘れようとする程、九十九を意識してしまい、結果避ける様な形になってしまっていた。 九十九は間違いなく違和感を感じているはずだ。 傍にいると、どうしてもあの夜の事が浮かぶ。 手を見ればこの手で触れられた、唇を見ればこの唇にキスをされたのだと、その事ばかり頭を埋め尽くす。 そして、自分がこれほどまでに九十九を好きなんだと気付いてしまった。 男の自分が九十九を好きなどと知ったら、九十九はきっと自分から離れてしまうだろう。 今までのような関係に戻る事は出来ない。 今は、何とか自分の気持ちを閉じ込めようとしていた。 今まで通り接しようと思うが、ただ、今は歩み寄る事が出来なかった。 いつもの様に、雪柊はブラックキャットで一人カウンターでタバコを燻らせいた。 ボックス席には数名のメンバーが談笑している。 その時、店の扉が開きボックス席にいたメンバーたち一斉に立ち上がった。 「九十九さん、チャース!」 その名前にドキリとした。 「雪柊……なんで、おめーここにいんだよ」 怒気の含んだ声に振り向くと、九十九が自分を冷たい目で睨んでいる。 「なんでって……」 その目に居たたまれなくなり、目線を落とす。 「てめーに迎え来いって言ったよな!なんで、天音が来て、てめーは暇そうにここにいんだよ!」 そう言って九十九は、ガンッと近くのソファを蹴り飛ばした。 「……」 近くにいた久我たちが、九十九のその行動にギョッとしている。 普段、冷静沈着な九十九がキレる事は滅多になく、驚くのも無理はない。 黙っていると、ツラ貸せ、九十九がそう言って店の外に出ると、仕方なく重い腰を上げ九十九に着いて店を出ようとした。 「ど、どうした⁉︎雪柊、九十九さんとなんかあったのか?」 久我が心配そうに聞いてくる。 「いや……大丈夫だ」 力なく言うと扉を開けた。 「家まで乗せてけ……」 雪柊がバイクに跨ると、九十九が後ろに乗った。 その日は真冬並みの寒さで、バイクで風を切って走るには、ライダースだけでは寒く感じた。だが、この寒さと震えは、後ろから感じる九十九の怒りのせいかもしれない。 九十九の自宅に着き、バイクから降りた九十九を見ると、顎が動き無言で家に入るよう促された。 玄関に入ると、 「あ!雪柊のアニキ!」 顔を絆創膏だらけにした少年が雪柊を見て、嬉しそうな笑顔向けた。 村上一……九十九の四つ下の弟だ。 九十九に薄っすらと似ているが、一の無邪気な人懐こい顔は九十九に無いものだ。だが、普段から据わった様な目は良く似ていると雪柊はいつも思う。 今は中学二年で、九十九、雪柊に続き大森中で現在、番を張っている。 おそらく後々ルシファーに入る事になるだろう。 「なんか久しぶりですね」 村上家には何度か来た事があり、一が小学生だったころから随分と懐かれ、こんな自分に憧れを抱いていると九十九に聞いた事があった。 「……出掛けるのか?」 「結弦と約束してるんです」 いつも一緒にいる幼馴染の名前を出す。 「あ!バイクの事で聞きたい事があるんで、帰らないで下さいね!」 そう言って一は家を出て行った。 九十九について二階に上がる。 階段を登る足が酷く重い気がした。 部屋に通され扉が閉まる。 前にいた九十九が振り向いた途端、九十九の手が雪柊の胸ぐらを掴んだ。 その次の瞬間、九十九に顔を殴られ、その勢いでベットに倒れ込んでしまった。

ともだちにシェアしよう!