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第22話※
「っ……!」
「おめー、なんでオレを避ける」
「……」
殴られた左頬に手をあてたまま、雪柊は目を伏せた。
「避けてなんかいないです」
「嘘つけ!」
吐き捨てるように言われ、鋭い目で上から見下ろされる。
確かに避けていた。メールも電話もしないでいた。九十九から連絡してくる事は殆どなく、雪柊からいつも連絡していたが、それがピタリと止まり、九十九は不審に思っているのだろう。
「忙しかったんです」
そう言うとまた、殴られた。
「ってー……」
「嘘つくんじゃねーよ」
前髪を掴まれ揺さぶれた。
「うっ……」
九十九に今までこんな凶暴な目を向けられた記憶はない。
顔は血の気が引き、普段から若干据わったような目をしている九十九だったが、今は更にその目に怒気が含み、ギラリと眼光を光らせている。
向けられた事はなかったが、見た事は覚えているだけで過去三度あった。一度目は、小学生の時高校生に犯されそうになって助けられた時。二度目は、英信の生徒に金を奪われた時。
そして、三度目は雪柊の頬の傷を作った原因となった時だ。
その時と同じ目をしていた。
本気で怒っている、そう思うと雪柊は小さく震えた。
涙をグッと堪える。泣くと余計に殴られそうな気がした。
「女でもできたか?」
髪を掴まれたまま、顔を無理矢理上げさせられた。目の前に据わった目をした九十九の顔があり、ジワリと冷や汗が背中を伝った。
「どうなんだよ、女ができたのか?」
「そんなんじゃ……」
できたと言ったらどうなるんだろう、できたと言えば九十九の怒りは収まるのか、それも疑問であった。
「脱げよ」
掴まれた髪を荒っぽく放された勢いで、雪柊はベットに倒れ込む。
恐る恐る九十九を見るとまた、脱げ、と言われ
、言われるまま震える手でライダースを脱いだ。
「全部」
タンクトップに手をかけ上半身裸になる。なぜ、自分はストリッパーのような事をさせられているのか、意味がわからなかった。
「下もだよ」
雪柊は思わずその言葉に目を見開き、九十九を見上げた。
九十九は堪り兼ねたように自分の制服のジャケットを脱ぎ、ネクタイを外した。上から馬乗りになり雪柊の両腕を頭の上に持ってくると、そのネクタイで雪柊の両手首を縛り上げた。
「!?」
抑えつけた雪柊を組み敷くと、噛み付くようなキスをしてきた。
咄嗟の事に雪柊は顔を背ける。
「や、やめ……!」
「オレの言う事聞けねーのか」
九十九は雪柊の顔を片手で挟み込み、左手で縛った両手を抑え、顔を動かす事を許さない。身動きの取れない雪柊に九十九は再び唇を塞ぎ、九十九の右膝が雪柊の股を割って入ってきた。
唇は首筋を舐め、胸元へと降りる。
縛られた両手で何とか抵抗しようとするが、完全に体は押さえつけられて動かす事ができなかった。抵抗しようにも、体型が違い過ぎた。
そして、九十九の手が雪柊のズボンのベルトにかかり、片手で器用に外しファスナーを下ろした。
雪柊は震えていた。
こんな九十九を怖いと思った事はなかった。
いつも優しく自分の頭を撫でてくれる優しい九十九はいない。
今の豹変した九十九は別人なのではないかと思うと、知らない男に襲われているよう思えて、とうとう雪柊の目から涙が溢れた。
一度流れると堰を切ったように、ハタハタともう止まる事がなく、子供が泣くような嗚咽が漏れた。喉がひゅーひゅーとなり息を吸うのも困難になる。
泣いたら殴れる、そう思いながらも涙は止まってくれる事はなかった。
「雪柊……!」
そう焦ったような声が聞こえたと思うと、縛られていた両手が解かれ、次の瞬間には九十九に強く抱きしめらていた。
九十九は雪柊の背中を何度も撫でると、
「すまねえ……怖かったよな」
九十九が雪柊の顔を覗き込むように顔を向けると、泣きそうな表情を浮かべていた。
その顔を見た瞬間、雪柊は九十九の胸に顔を埋め、ヒクヒクとしゃくり上げながら子供のように泣いた。
おそらく、父親が死んだ時以来の号泣だった。
九十九はそんな雪柊を強く抱きしめ、ずっと背中を撫で続けた。
少し涙が落ち着くと、九十九は雪柊をベットに横にさせ、
「すまねえ……」
また、謝ると九十九が泣きそうな顔を浮かべ、今度は殴った頬を撫でる。
ちょっと待ってろ……そう言って部屋を出て行った。
九十九に殴られた頬がジンジンと熱を持ち痛みはじめた。唇が切れて血の味がする。
タオルを手にした九十九が再び部屋に入ってきた。横になっている雪柊の脇に座ると、自分が殴った左頬にそっと触り、濡れたタオルを置いた。ひんやりとした感覚が心地よく目を瞑る。
九十九はずっと、雪柊の髪と縛って赤くなってしまった手首を撫でている。泣いたせいで瞼が酷く重い。頬の冷たさと九十九の撫でている手の心地良さに雪柊は一気に眠気に襲われ、トロトロと瞼が降りてくる。
「少し、寝るといい…」
九十九のその優しい声色に安心したように、雪柊はそのまま眠ってしまった。
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