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第24話
その時、バタン!と、階下から玄関の扉が勢い良く閉まる音がした。
お互いに大きく肩を揺らし、目を合わせたまま二人の動きが止まった。
「アニキー!雪柊のアニキ!」
バタバタと階段を上がる騒々しい音。どうやら、一が帰宅したようだった。
「鍵は……?」
雪柊が聞くと、閉まってるから大丈夫だ……九十九は焦りを隠せていない。
ガチャガチャとドアノブが動く。
「アニキ?開けてくれよ」
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
急いで下着とズボンを履き、上も慌てて着る。
九十九が雪柊が服を着た事を確認すると、鍵を開けようとドアノブに手をかける。
雪柊は窓を全開に開けると、冷たい風が部屋に流れ込んできた。
鍵を開けると同時に一が嬉しそうに部屋に入ってくる。後ろから、女の子のような容姿の男の子が一の後に続いて入ってきた。一の幼馴染の結弦だ。
「お帰り、一……」
雪柊はベットの上で立膝を立て、膝に腕を置き冷静を装う。
「二人とも……寒くないの?」
一は二人を見て目を丸くしている。
春になったとは言え、今日は真冬並みの寒さで、窓など開けていられない気温である。
なのに、兄たちは逞しい腕を出している。兄は白い半袖姿、雪柊に至ってはタンクトップ、挙句窓を全開にしている。
「てか、こんな寒いのになんで窓開けてんの?」
「タバコの煙が充満してたから、換気してたんだよ」
九十九が一と目線を合わせず言う。
「ふーん」
一と結弦は不思議そうに顔を見合わせ、そしてマジマジと雪柊の顔を見た。
「顔どうしたんですか⁉︎アニキが殴ったの⁈」
一が雪柊の左頬に目線が向けた。
雪柊は左頬を抑え、
「あ……ああ、ちょっと九十九兄ぃに喝入れられちまった」
そう言って引きつった笑みを浮かべる。
九十九をチラリと見ると、動揺したように目を泳がしている。
「アニキ!いつもオレにはむやみやたらに人殴るなって言ってるくせに!」
一に怒られてしまった。
「悪かったよ!」
さすがにバツが悪いのか、誤魔化すようにタバコに火を点けている。
それを、一を睨むように兄を見ている。
雪柊を尊敬してやまない一は、兄が許せないようだった。
「雪柊のアニキ!これ見て欲しいんですけど……」
そう言って手に持っていたバイク雑誌を雪柊の前に出した。雪柊は雑誌を覗き込む。
「雪柊さん、それ、何ですか……?」
結弦が目を丸くして雪柊の首元を指さす。
一も気付くと、すげー!キスマーク⁈と、目を丸くしている。
「!!」
隠そうにも既に遅い。
「子供にはまだ目の毒だな……」
雪柊はそう言って、さりげなくライダースを羽織る。
「モテる男は色々あるんだよ、なぁ、雪柊?」
雪柊は、ふっ……と、妖しげな笑みをこぼし、ええ……そう軽く小首を傾けて、一と結弦に流し目を向けた。
二人はその雪柊の顔を見て、みるみる顔を赤くしている。
「で?なんだって?」
雪柊は早くこの話題から逸らす為に、雑誌を手に取る。
「あ、このバイクのエンジンなんですけど……」
普段、冷静沈着な九十九と雪柊も今度ばかりはさすがに焦った。今まで、何度も何十人の男に囲まれても、動揺する事などなかったが、今回ばかりは、史上稀に見る焦りを体験したのだった。
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