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第25話

九十九もそれなりに自分に対して何か意識しているのは感じた。 それが、自分が九十九に思っている感情と同じなのかは分からない。 自分はきっと、九十九への憧れと尊敬の枠を超え、気持ちが暴走してしまった結果が恋愛感情になったのではないかと思った。 それでも、それが恋愛感情というなら、自分は受け止める覚悟は出来ている。男女の恋人同士のような関係などは望んではいない。 ただ、九十九の側にいられればそれでいい。 先日の件も有り、関係の修復はできた。 タイミング悪く、九十九のテスト期間に入ってしまい、あれから一週間、九十九には会っていない。会いたいとも思ったが、九十九の勉強の邪魔はしたくなかった。 ブラックキャットで、いつものようにいつものカウンター席で一人、雪柊はタバコを燻らす。 離れたボックス席で、天音、久我、椎名の同期メンバーが雪柊を見て顔を寄せ合いコソコソと話している。 「なんかよー、最近の雪柊の色気が…」 「ダダ漏れだよな……」 「前から色気みてーのはあったけどよ……」 「思春期の男子には目の毒……」 「本人自覚ねーから、困るよなぁ」 「この前なんか、首にキスマーク付けてるし……」 「女……できたのか?でも、あいつは九十九さん一筋だと思ってたけど」 一斉に視線を雪柊に向ける。 艶っぽい横顔で、気怠くタバコをふかしているその姿に、全員息を呑む。 視線に気付いた雪柊がこちらに流し目を向けた。 その瞬間、 「何見てやがんだ……」 ギロリと眼光が光った。 (こわっ……!) 先程の艶っぽい顔とは同じとは思えない形相を向けられる。 「いえ……」 そう言って、一斉に三人は視線を逸らした。 その時、雪柊の携帯が震えた。九十九からだった。 《テスト終わった。メシ食べ行こう。三十分後、イーストウッド来れるか?》 思わず雪柊の顔が綻ぶ。 《テストお疲れ様でした。了解です》 そう即レスし、携帯を閉じた。 待ち合わせの店へバイクを走らせた。 ハンバーグが美味しいその店は、ルシファー行きつけの店で、何度も足を運んでいる。 途中九十九から、タバコ買ってきてくれ、とメールが届きコンビニに立ち寄る。自分のタバコと二つ購入すると、外に出た。 目の前に紺色のブレザーが見えたと思うと同時に入ろうとした男とぶつかりそうになる。 「おっと……」 その声に目を上げると、見事なプラチナブロンドの髪と外人のようは端正な顔が目に入る。 (伊武……!) 英信高校の頭であり玄龍の最大のライバル、伊武虎白(こはく)だった。 なんで、こんな所にいるのか謎だった。この辺はルシファーのテリトリーなような所で、不良の輩はこの地域に足を踏み入れる事はまずない。 「玄龍のとこ?」 不意に、ルシファーのミリタリーブルゾンの胸元のロゴを指差された。 そこにはローマ字で《LUCIFER》の文字。 雪柊は素直に頷いたが、目はギラリと光らせる。 「もしかして、白石っておまえ?」 なぜ、自分の名前を知っているのか、不審顔で首を縦に動かすと、ふーん……と言って、虎白はヘーゼルカラーの目を雪柊に向け、上から下へと動かした。 普通の人なら不快にしか思えないその遠慮ない視線は、眉目秀麗なこの男がすると不思議な事に、ただ気恥ずかしい気持ちになる。 「な、なんだよ……」 居たたまれなくなり、雪柊は口を開く。 「玄龍が、オレに似た雰囲気の奴がルシファー入ったって言ってたからよ」 「頭が?」 「確かに同じ匂いするな」 涼やかな目元が細くなり、薄っすらと笑みを浮かべられ、思わず雪柊は赤くなる。 「オタクらの頭に宜しくなー」 そう肩を叩かれ、虎白は手をヒラヒラと振りコンビニに入って行った。 あれで玄龍と会うたびに喧嘩をし、玄龍は躊躇う事なくあの綺麗な顔に傷を付けるのだ。 (オレと伊武が似てる……?) 呆然としたままコンビニの中にいる虎白に目をやる。プラチナブロンドの髪が棚の上から見え隠れしていた。 噂に聞いてはいたが、噂以上に綺麗な男だと思った。 伊武虎白の存在はもちろん知っていた。 近くから見た事はなかったが、遠目からでも綺麗な顔をしているとは思っていた。 だが、近くで見ると嫌でもその端正な顔立ちに見惚れてしまった自分がいた。 パッと見ると、モデルのようなその男が、喧嘩が鬼のように強いとは雪柊は信じられなかった。 だか、現在その男が悪の吹き溜まりの英信高校のトップに君臨しているのは事実だった。

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