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第26話

店に着くと茶色のブレザーの制服姿に赤い髪の後ろ姿がすぐ目に入り、九十九の前の席に座る。 「遅くなりました」 九十九とはあの日以来だった。雪柊の頭にあの時の事がよぎり、まともに九十九の顔が見れない。 「久しぶりだな、なんか……」 その声に顔を上げると、九十九はタバコを持っている右手に顎を乗せ小首を傾ける。 雪柊はいつものハンバーグを頼み、出された水に口を付ける。 それを九十九はじっと見ている。 「さっき……伊武虎白に会いました、そこのコンビニで」 九十九の目が見開いた。 「伊武に?」 コクリと頷き、買ったタバコを九十九に渡す。 「頭が……自分と似ているのがルシファーに入ったって、言ってたって」 「玄龍が言ってたって言ったのか?」 また、コクリと頷く。 「似てますか?オレと伊武って……」 少し戸惑うような顔を九十九に向けた。 「そうだな……」 九十九は目を上に向け、 「似てるかもな」 そう言って、真っ直ぐ雪柊を見た。 「オレにはわかんないです、どの辺が似ているのか……」 自分が、あんなに綺麗な顔をしているとは到底思えない。それとも中身の事を言っているのか、雪柊には何を持ってして似ていると言われているのか分からなかった。 「一言で言えば……美人なとこじゃねえのか?」 悪戯っぽい笑みを浮かべ、そう言った。 美人……。 その言葉に雪柊の顔は赤くなり、 「美人って男に使う言葉じゃないでしょう」 雪柊は口を尖らせる。 「そんな事ないだろ、実際美人な男はいるんだからよ」 お前みたいに……。 そう揶揄うように言葉を続けたが、聞こえないフリをした。 「初めて至近距離で見ましたけど、噂以上に綺麗な顔してて正直、びっくりしました」 「だよな、オレも初めて見た時はびっくりしたぜ。でも、玄龍はそんな事お構いなしで喧嘩おっぱじめたけどな」 昔を思い出したのか、ふっ……と鼻で笑う。 「確か、クォーターって言ってた。ばあちゃんがスウェーデンだかノルウェーの人らしい」 「へえ……だからあんなに」 綺麗な顔をしているんだ、と後半は口には出さなかった。 「でも、オレは……」 九十九は不意に雪柊の頬の傷にそっと触れ、 「おまえのが美人だと思う」 そう言った。 雪柊はみるみる顔を赤くし、やんわりと九十九の手を払った。 「そんな事言われても、全然褒められた感じしませんよ」 嬉しい気持ちはなくはなかったが、男としてのプライドがある以上、そう口にせざる得なかった。 食事が運ばれてくると、ハンバーグに舌鼓を打ち、あっという間に二人は平らげる。 食後の一服をしていると、 「一が……」 そう口を開き、 「会いたがってた。相談したい事があるって」 「相談?」 「なんの相談かは知らねー。今日いるはずだから、この後何もなければうちに来いよ」 「あー、はい」 なんの相談だろうか……電話してくれればいいのに、そう雪柊は思った。 学校帰りで足のない九十九を後ろに乗せ、九十九の自宅へと向かった。 玄関に入ると、そこに一の靴はなかった。 「まだ、帰って来てないみたいだな」 そのまま階段を登り、ひとまず九十九の部屋で一を待つ事にした。

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