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第30話
九十九は雪柊を抱くようになってから、雪柊にどんどん嵌っている自分に気付いていた。
雪柊と関係を持ってから一度女を抱く機会があった。
終始、雪柊の顔が浮かび、雪柊を裏切っているような自己嫌悪がまとわりつき、結局九十九はその日、その女とはやらなかった。というより、やれなかったのだ。驚いた事に、身体が反応しなかった。
自分は不能になってしまったのかと焦ったが、翌日、雪柊を抱いた時は前日の事が嘘のように反応し、その日は雪柊が気を失う程抱いた。
もう、すっかり雪柊に自分は溺れている。
もう、雪柊以外抱けないのかもしれない、そう思った。
雪柊のあのタトゥーを見た時、雪柊の決心を見た気がした。
自分より余程潔く男らしいと。自分は先の見えない不毛な関係に不安ばかりを抱いている。
答えを望んでいない雪柊に甘える形で、関係をうやむやにしてしまったいた。
だが、お互いの未来を考えてしまうと、今一歩踏み出せなかった。
こんな事をしていては、いつか雪柊は別の誰かの者になってしまうという焦りもあった。
雪柊が他の誰かの物になってしまう、そう考えると腹の奥にグツグツとした苛立ちを感じる。
それでも、男同士の不毛な関係に幸せなどあるのか、九十九の中の迷いはなかなか消える事はなかった。
だが、雪柊と体を重ねる事を止める事は出来ない。
雪柊は拒む事なく、寧ろ自分を欲した。
『あんたの傍にいられれば、それでいい』
いつもそう言って、美しい笑みを自分に浮かべるのだ。
雪柊の背中には、自分への忠誠を誓うタトゥーまで入れているというのに、雪柊の気持ちを知りながら、うやむやのまま雪柊を抱いている自分はなんて狡い男なのだろう、と自己嫌悪に陥いる自分がいた。
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