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第31話

その日も、雪柊を貪るように抱いた。 いつか、雪柊を壊してしまうのではないかと、自分の雪柊への欲情は止めどなく溢れていく。 雪柊はしばし、九十九の腕の中でぼうっとしていたかと思うと、スルリと腕の中を抜け出した。 「シャワー、借ります」 雪柊は気怠そうに散らばった服を拾い部屋を出て行こうとした。 いつもなら、行為の後はしばらく動く事が困難なようで、少し微睡んでからシャワーを浴びていた。 「帰るのか?」 九十九はベットの中でタバコを燻らせながら尋ねた。 「久我と約束あるんです」 「ふーん……二人でか?」 コクリと頷く。 九十九の腹の奥が、ジワリと疼いた。 「ヤキモチですか?」 そう雪柊は揶揄うように、クスリと笑みを浮かべた。 「うるせーよ」 九十九は、誤魔化すように枕を投げる。 ぽふっと雪柊の天使の羽根に当たり、雪柊はその枕を九十九に投げ返してきた。 「久我の後輩が困ってるらしくて、その話しを聞きに行くだけです」 そう言って、部屋を出て行った。 同じルシファーの奴にもヤキモチを妬いている自分は相当重症だと思った。 咥えていたタバコの最後の一口を大きく吸い込み、そして溜め息と一緒に吐き出した。 シャワーから戻った雪柊は、身支度を整えて部屋を出ようとドアノブに手をかけた。 九十九は後ろから抱きしめて、キスを落とす。 「じゃ、また」 「ああ……」 そうは言ったものの何となく離れがたく、しばらく雪柊の背中に張り付いた。 「今日は随分と甘えん坊ですね」 困ったような声が聞こえた。 その言葉を無視して、何度も啄むキスをする。 「待ち合わせの時間遅れるんで、もう行きます」 そう言って雪柊からキスをされ、仕方なく体を離すと、あっさりと部屋を出て行ってしまう。 九十九はタバコに火を付けると、雪柊を見届けてやろうと部屋の窓から雪柊が出てくるのを待った。 外はすっかり日が沈み、薄暗くなっていた。壁掛けの時計を見ると七時を回ろうとしている。 すぐに玄関からライダースを身にまとった雪柊が出てくる。少し怠そうに腰を抑えた姿に、九十九はクスクスと一人で笑いを堪える。 庭の九十九のバイクの隣に止めてある自分のアメリカンタイプのバイクに跨り、エンジンをかけた。 ドルルンッと、アメリカン独特の低いマフラー音が響く。 不意に雪柊が顔を上げこちらを見た。 九十九は窓を開け、 「雪柊!メット被れよ!」 九十九は自分の頭を指差して言う。 自分もよくノーヘルでバイクを乗ってしまう為あまり口煩くは言わないが、その日は何となく口に出ていた。 雪柊は少し顔をしかめたのが分かった。 久我の家はここから近い為、どうせ面倒臭がってノーヘルで行くつもりだったのだろう。 サイドバックに引っ掛けてあるヘルメットを取るとそれを被り、車体をUターンさせた。ブォン!と一度吹かし、雪柊はギアを入れ発進すると、あっという間に見えなくなった。 九十九は雪柊が見えなくなるとカーテンを閉めた。 自分もシャワーを浴びよう、と部屋を出た。

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